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5.J・D・サリンジャー シーモア-序章-

十代の頃、ぼくにも人並みの悩みがあった。グラース家の人に相談してみようと訪ねてみたのだが。その日は、レスとベシーだけで子どもたちはみな不在だというので帰って来た。次の日、玄関をノックすると、フラニーとゾーイーが出てきた。二人だけだという。すこし考えたが、出直すことにした。その頃、ブーブーはもう嫁いでいたし、双子も家を出て暮らしていたんだと思う。

1922年のこと、シーモアが5才、わたしが3才のとき、レスとベシーはブリスベーンで、ジョー・ジャクソン  ニッケル張りの曲乗り自転車のかの敬愛すべきジョー・ジャクソンで、その自転車はなにかプラチナ以上のもののようにまさに劇場の最後列まで輝いていたものであった  と組んで、二週間ほど同じ番組を上演したことがある。それから長い年月が過ぎ、第二次世界大戦が始まってすぐ、シーモアとわたしがニューヨークのわたしたち自身のアパートに引っ越したばかりの頃、父がある晩ピノクルの帰り途にわたしたちのところへ立ち寄ったことがある。(中略)
(レスは)わが家ではだれもが見なれているぶっきらぼうな態度で振り向くと、シーモアに、ジョー・ジャクソンが、彼・シーモアを自転車のハンドルの上に乗せて、舞台をぐるぐる回ったときのことを覚えているかとたずねた。(中略)
(シーモアは)いつもレスの質問に答えるときに見せる一種独特のやり方で、まるでそれが、一生の間で一番待ちうけていた質問であるかのように返事した。彼はジョー・ジャクソンの美しい自転車から降りたかどうかはっきりしないと言った。(井上謙治 訳)


さらに次の日、玄関からは、シーモアが出てきた。思わず、バディはいますか?と言ってしまった。バディは、親切にぼくの話をきいてくれて、帰る際には本をプレゼントしてくれた。でも、やっぱりシーモアと話がしたかったな。

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4.フィリパ・ピアス キイチゴつみ

夏休みのすぐあと、学校がはじまってすぐの土曜日。父親がそろそろ藪のキイチゴを摘みにいかなければならないと言い出したところから物語ははじまる。楽しいたのしい家族総出のイベントになりそうと思いきや、なにやら不穏なムードが漂い始めるのである。

ピーターはたずねた。「行かなくちゃいけないの?」
「自転車だ。」父さんはいった。「みんな自転車に乗って出かけるんだ。キイチゴつみにな。五人でやればたくさんつめるぞ。」
「あたし、おべんとうつくるわ。」ヴァルはいった。こういうことが好きなのだった。(中略)
しかし、いちばん年上で、しかもすっかり大きくなっていたクリスはいった。「ぼくは行かないよ。」(中略)そこで、ことしはキイチゴつみに行く者がひとりへった。
母さんも行かなかった。土曜日になると、母さんは気分がよくない。といった。(中略)
ふたりへっても、どうということはなかった。なぜなら父さんは、となりのターナーさんの子供ふたりをつれていくことにしたからだ。(中略)
「まず自転車だ。」父さんはいった。「調子がいいかどうか点検するんだ。…」
(猪熊葉子訳)


不穏なムードが漂い始める、でも心配は要らないんだけどね。
大人の目にはほんの些細なこととしか見えないことではあっても、子どもにとってかけがえのない意味を持つものとして記憶されるに違いない特別な経験。それを描くことがピアスはとても巧い。この短篇も、まさにそんな作品である。「キイチゴつみ」(1959-72)は、岩波少年文庫の短編集「真夜中のパーティー」に収録されている。

3. アンリ・トロワイヤ 自転車の怪

二人乗り自転車に憧れる。
いや女の子を後ろに乗っけて走るニケツではなくて、ちゃあんと前後にサドルが二つある自転車、タンデムってやつである。もちろんイメージ的には、後ろの座席で女性がペダルをまわしている、結局、そうなんだけどね。・・アンリ・トロワイヤの短編、「自転車の怪」(1939)では、フランスの田舎町のある夫婦が二人乗自転車を乗り回している。

それは細い銀の棒でできた、南京豆のようなかたちをした二人乗自転車であった。二つならんだハンドルは、しなやかで、しかもがっちりした線を描いて内側に曲っていた。見事な透し細工をほどこされ、真珠色のゴムをかぶせた四つのペダルは、脚で漕ぐのにはこの上なく具合よかった。(澁澤龍彦 訳)


そうそうそんなやつである。そんな自転車に乗って二人で何処かにでかけたい。普通は男が前を漕ぐらしいが、今や21世紀女性の世紀である、彼女が望めば前席を譲ってもいい、別に後ろからジロジロと眺めようってんじゃない。この小説でも、慧眼で健脚の夫人が前を漕ぎ、近眼であまり丈夫でない夫が後ろに控える。その位置関係を町の人に笑われたりする。それでも二人は楽しそうに自転車をこぐ。日曜日ごとに町の外に遠乗りに出かける。 『こうして二人して自転車のサドルに腰をのせているときくらい、この夫婦がお互いに近しく理解し合い、お互いに楽しく相通じ合い、そしてお互いに琴瑟相和していることをまざまざと感じることはないのだった。(澁澤訳)』ほらね、こんなふうな力が二人乗り自転車にはあるらしい。涸れつきた愛撫などよりもずっと確かな酔い心地を味わわせてくれるらしい。
そしてところがこの小説では、そんな蜜月が長続きしない。病弱だった夫が死んでしまうのである。残された夫人は喪服に身をつつみ、この自転車に乗りつづける。小さな十字架を胸に飾り途方もなく長い黒のヴェールをひらひらと流しながら自転車を走らせる。『えらいものだ、あれだけしてやりゃ、さぞかし故人も浮かばれるだろう』なんだ縁起でもない。二人乗り自転車に憧れたのはそんな顛末を望んだわけじゃない。なのに、このあと物語はどんどん奇怪な展開を深めていくのでありました・・・。

2.カポーティ クリスマスの思い出

少年の頃なら、なんたって自転車がほしいと思うだろう。カポーティのこの短編でも、少年はクリスマスプレゼントに自転車がほしいらしい。でも願いがかなわないことも知っていて、その代わりに彼女から凧をもらう。彼女にも凧をあげる。そういう話である。
ぼくはたしか七才、彼女は年取った従姉で六十才を越える。カポーティの作品にはたびたび登場するおなじみのふたりである。「ぼく」は、もちろんカポーティ自身のことでもある。

ヒイラギの輪を作って、それにリボンをつけて、表向きの窓という窓に飾ったあとで、僕らは家族のみんなへのプレゼントを用意する。(中略)
僕は彼女のために真珠の柄のついたナイフとラジオと、チョコレートをかぶせたチェリーをたっぷり一ポンド買ってあげたいと思う。でもそのかわりに、僕は彼女のために凧を作る。彼女は僕に自転車を買ってやりたいと思っている。でもそのかわりに彼女は僕のために凧を作ってくれているんだろうと僕は見当をつけている。去年もそうだったし、一昨年もそうだった。
(村上春樹 訳)


「クリスマスの思い出」(1956)は、短編集 『誕生日の子どもたち』(文藝春秋、文春文庫)に収録されている他に、山本容子さんの挿画を付けて、単独でも単行本になっている。とても人気のある作品らしい。訳者によれば、イノセントを主題としたカポーティの数あるイノセントシリーズの作品の中でも代表作といっていいものであるそうだ。
カポーティのそういう主題の短編なら、シリーズ化だとか売らんかなの対象なんかにせずにそっと重版をかさねるというくらいにしておいてほしいなんて言うときっとバチがあたるんだろうから言わないようにしよう。わざわざ単独の単行本なんかにせずに、分厚い短編集の中の一篇として読むほうが味わい深いし他の作品との繋がりも感じられるから好きだなんていうのもよそうと思う。だってそんな余分なことを思ったり考えたりする余地のないくらいこの短編は素敵なのである。



1. ケストナー エーミールと探偵たち

「エーミールと探偵たち」(1929)、ケストナーの傑作。岩波少年文庫の中でも大好きな一冊である。説明不要の愉しさというのはこういうものを指すのだろう。しかし、この本の面白さを伝えることはわたしの役割ではない。
紹介したいのは、ポニー・ヒュートヒェンについてである。彼女のキュートな魅力について書いてみたい。自転車少女というのは、こうあるべきだと思う。

そのとき、門のアーチのあたりでベルの音がした!ポニー・ヒュートヒェンが、顔をかがやかせながら、自転車を中庭に乗りいれた。
「おっはよう、みんな!」
自転車から飛びおりると、いとこのエーミールと教授とみんなにあいさつして、うしろの荷台にくくりつけてあったちいさなバスケットを、みんなの前においた。
「コーヒーとバタパンをもってきた!カップもちゃんとある。あれ、取っ手が取れちゃった!やんなっちゃうなあ、もう!」
(池田香代子 訳)


彼女は、エーミールのいとこである。ベルリンに住んでいる。ほぼ少年ばかりの登場人物の中で、唯一の女の子である。子供用自転車に乗っている。ニッケルめっきのぴかぴかのやつである。
いつもどこでも自転車に乗っている。乗ってはいけない場所では、押したり引いたりしている。道で誰かと出会ったときや、誰かとなにか話をしたあとで、自転車のベルをチリリンと鳴らしたりする。一緒に出かけたおばあさんが歩くのに疲れたようすを見せれば、自転車のハンドルにすわる?と訊いてあげたりする。

残念ながらポニーは、今回の事件ではあまり活躍できなかった。わたしはそれが残念である。


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