200. ジョナサン・キャロル 死者の書

「死者の書」(1980)は、キャロルの第一長編である。まさに驚くべき処女作!読み始めるとすぐに独特の物語に魅了される。読み終わると今度は、この物語を書いたのはなぜ私ではないのかと悔しがることになる。もちろん小説などいちども書いたことがないわけだけれど。

それから数日間は何も起きなかった。ぼくは町をうろついて住民と話をした。みんな愛想はよかったが、ぼくの知らないようなことを話してくれる人はいなかった。マーシャル・フランスはいい奴で、のんびり油を売るのが好きな点では普通の人間と変わらんかったねえ。有名になって迷惑そうだったよ、そうとも。家庭を大事にする男だった。娘には甘過ぎることもあったが、そこが父親じゃないかね?
ぼくは町立図書館に行ってフランスの本を全部読み返した。司書は牡蠣殻を思わせるピンクのラインストーンをちりばめた眼鏡をかけ、下ぶくれの頬に紅をさした婆さんだった。(中略)司書がぼくの目をとらえ、指を曲げて机まで呼んだ。書架の後ろで騒いでいるのを見つかった悪戯っ子のような気がした。
「アビイさんですか?」と司書は厳格な口調で囁いた。
(浅羽莢子訳)


物語の主人公はアビイ、高校教師である。休職し、偏愛する作家、マーシャル・フランスの伝記を書こうとしている。資料集めを開始するとすぐに、奇妙なできごとに相次いで出会うことになる。・・・粗筋を書くとこんなふうになるが、当然ながら作品の魅力はそんなところにはない。キャロルの魅力は、その独特の幻想譚を生みだす想像力と共に、卓越した小説技術にあると思うのだがどうだろうか。その業に翻弄され魅了され尽してくたくたになって読み終わること請け合いである。


(Library at Night、完)

199. ワシントン・アーヴィング アルハンブラ物語

この古い、夢見ているような宮殿には、美しいものならなんでもあった。しかし・・・。

わたしは、このオリエントの美的趣味と壮麗さの一大記念碑を遺し、いまもその名を壁面にとどめているモーロの王たちのことを、是非とも知らなければと思った。この好奇心を満足させようと思い立ったわたしは、見るもの、聞くものが、たちまち幻想の色調を帯びてくる、この空想と物語の場所から下って、グラナダ大学のイエズス会図書館へと赴き、古い文献をひもといてみることにした。
かつては、知の宝庫をもってみずから任じたこの図書館も、いまは、昔日の面影をわずかに残すのみだ。フランス軍がグラナダを占拠していた時期に、写本や貴重な文献をことごとく本国へ持ち帰ってしまったからである。しかし、フランス軍がさすがに気を使って残していった、イエズス会神父たちの膨大な、重苦しい文書が納められた一室に、スペイン語で記された伝承関係の小冊子数点と、わたしには何にも替え難いほど値打ちのある、相当数の古い羊皮紙綴じの年代記が眠っていた。
わたしは以後、この古色蒼然とした図書館をたびたび訪ね、静かに、だれにも邪魔されずに、心ゆくまで年代記をひもとき、楽しい時間を過ごした。
(「アルハンブラ物語」(1832,1851)、平沼孝之訳)


しかし、アーヴィングは、古い書物や文献を見るために、丘を下りてグラナダ大学のイエズス会図書館へ何度も通っている。この宮殿の中には、果たして図書室はなかったのだろうか?

198. ウンベルト・エーコ 薔薇の名前

「薔薇の名前」(1980)は、エーコの処女小説。読み解くべき物語が重層的に嵌め込まれており、<書物の書物の書物・・・>とでもいうような構造を持つ。また、一冊まるごと<文書館(Library)>について書かれた物語でもある。

惨劇の発生で共同体の生活は混乱した。死体の発見によって惹き起こされた騒動のために、聖務は中断されてしまった。(中略)「ベンチョは落着きがなく、ベレンガーリオは怯えている」ウィリアムが言った。「すぐにあの二人を問い糺してみよう」(中略)
「わたしの記憶にまちがいがなければ、ヴェナンツィオも他の書物の名をいくつか挙げたので、ホルヘは激しく怒りました」
「どういう書物の名を?」
ベンチョはためらった。「よく覚えていません。話題になった書物の名が、重要なのでしょうか?」
「とても重要だ。なぜなら、いまの場合、書物に囲まれて、書物と共にあって、書物によって生きている人々のあいだに起きた事件を、わたしたちは調べているのだから。それゆえ、書物をめぐって彼らが口にした言葉は、いずれも重要なのだ」
(河島英昭訳)


映画化された小説は幾つもあるが、小説ファンの方から見れば物足りないものが多いかもしれない。それなら「薔薇の名前」は、貴重な事例か。もう朧げな記憶をたどれば、映画の方もとても濃密な味わいだったような気がする。あの暗い暗い修道院の映像が、ぼくの心のいちばん奥で♪、残っているように思うのである。


②小説の中の図書室、記事索引(101~200)

(Library at night)

101. アルベルト・マングェル 図書館 愛書家の楽園 (8/11)
102. リチャード・ブローティガン 愛のゆくえ
  池波正太郎記念文庫
103. ローレンス・ブロック 泥棒は図書室で推理する
104. エドワード・D・ホック 怪盗ニック対女怪盗サンドラ
105. ジョージ・マクドナルド リリス
  円形の書架
106. ダニロ・キシュ 死者の百科事典
  図書委員の腕章(09/01)
107. ボルヘス 砂の本
108. 太宰のラプンツェル
109. フィリップ・ロス さようならコロンバス
110. カニグズバーグ 魔女ジェニファとわたし
111. G・A・エフィンジャー 時の鳥
  司馬遼太郎記念館
112. A・E・ヴァン・ヴォクト 宇宙船ビーグル号
113. ルーディ・ラッカー 虚空の芽
114. クリスティ 書斎の死体
115. ラヴクラフト ダニッチの怪
116. サキ 聖ヴェスパルース伝
117. 中島敦 文字禍
118. ターハル・ベン=ジェルーン 聖なる夜
  ジャネット・ウィンター ろばのとしょかん
119. ウィリアム・トレヴァー グレイリスの遺産
120. ジャネット・ウィンターソン オレンジだけが果物じゃない
121. ウィリアム・サロイヤン 人間喜劇
122. 天沢退二郎 光車よ、まわれ!
123. トルーマン・カポーティ ティファニーで朝食を
124. オーガスト・ダーレス 図書館の殺人鬼
125. ウィルマー・H・シラス かえりみれば
126. チャイナ・ミエヴィル 鏡
  書斎のドン・キホーテ (10/01)
  デルヴォーの壁画
127. ポール・オースター ムーン・パレス
128. ロバート・W・チェイムバーズ 黄の印
129. ヘッセ 美しきかな青春
130. ダグラス・アダムス 銀河ヒッチハイク・ガイド
131. ハーラン・エリスン 小人たちと働いて
132. チェスタトン 飛ぶ星 (ブラウン神父シリーズ)
133. ジュノ・ディアス オスカー・ワオの短く凄まじい人生
134. ルナール 鼠 (博物誌)
135. J.R.ヒメネス ボール紙のプラテーロ/秋の飾り
136. セルバンテス ドン・キホーテ
137. ゴア・ヴィダル 書斎のご婦人たち
138. 宮沢賢治 図書館幻想
139. 危険書庫
140. ロアルド・ダール マチルダは小さな大天才
141. ラブレー パンタグリュエル
142. ドロシー・L・セイヤーズ 学寮祭の夜
143. レイモン・ジャン 読書する女
144. ケリー・リンク マジック・フォー・ビギナーズ
  コールデコット ハートのクイーン (11/01)
  書斎の聖ジェローム
145. ヴェルヌ 海底二万里
146. バーバラ・ピム 秋の四重奏
147.  チャールズ・シミック 異国の旅人
148. ミリヤン+パストール まだ名前のない小さな本
149. ミシェル・ビュトール 託けを運ぶ女たちの行列
150. アナトール・フランス  シルヴェストル・ボナールの罪
151. E.T.A.ホフマン 砂男
152. ナボコフ アカザ
153. ロベルト・ボラーニョ 野生の探偵たち
154. キャロル・エムシュウィラー 石造りの円形図書館
155. エイミー・ベンダー どうかおしずかに
156. 出久根達郎 御書物同心日記
157. アンドルー・ラング 書斎
  「書斎の作家」の肖像
158. ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア たったひとつの冴えたやりかた
159. トーマス・マン 魔の山
160. ジャン・コクトー 大股びらき
161. メアリー・マッカーシー アメリカの鳥
162. マヌエル・ムヒカ=ライネス 航海者たち
163. 中井英夫 薔薇の夜を旅するとき
164. The Library Lions
165. スタニスワフ・レム 完全な真空
  Visit to a Library in Venice
166. ランペドゥーサ 山猫
167. J・B・モートン 書斎に死体が・・
168. スティーヴン・リーコック がんばれガートルード、または純真な十七歳
169. マーク・トウェイン トム・ソーヤーの冒険
170. ポオ モルグ街の殺人事件
171. シオドア・スタージョン [ウィジェット]と[ワジェット]とボフ (12/01)
  まどのそとの そのまたむこう (Amazing Libraries①)
  ポプラ・クリーク公共図書館 (Amazing Libraries②)
172. マルグリット・ユルスナール 無名の男
173. マイケル・イネス ロンバート卿の蔵書 
174. ロバート・シルヴァーバーグ 世界の終わりを見にいったとき
175. 岡本綺堂 半七捕物帳・お文の魂
176. レイ・ブラッドベリ 華氏451度
177. ダニエル・ぺナック カモ少年と謎のペンフレンド
178. エリナー・ファージョン ムギと王さま
179. デイヴィッド・ゴードン 二流小説家
180. イタロ・カルヴィーノ 冬の夜ひとりの旅人が
181. ヘミングウェイ 兵士の故郷
182. ユイスマンス さかしま
183. フローベール 愛書狂
184. エリザベス・ボウエン 相続ならず
185. シャーウッド・アンダソン ワインズバーグ・オハイオ
186. イアン・サンソム 蔵書丸ごと消失事件
187. アリス・マンロー 小説のように
188. エリック・マコーマック ミステリウム
189. マンディアルグ 大理石
190. スティーヴン・ミルハウザー エドウィン・マルハウス
191. ジャスパー・フォード 文学刑事サーズデイ・ネクスト
192. アルフォンス・ドーデー 法王のらば
193. ボルヘス バベルの図書館
194. フィリップ・K・ディック 逆まわりの世界
195. スティーヴン・キング 図書館警察
196. シュテファン・ツヴァイク 書痴メンデル
197. リラダン イシス
198. ウンベルト・エーコ 薔薇の名前
199. ワシントン・アーヴィング アルハンブラ物語
200. ジョナサン・キャロル 死者の書


(Library at night、完)



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197. リラダン イシス

「イシス」(1862)は、リラダン、23歳の作品、未完の長編小説である。
女神イシスのこの世の再来と見立てて、<チュリヤ・ファブリヤナ伯爵夫人>という一人の女性の姿を描いている。ひたすら彼女を描写することでこの物語一巻すべてが終始している。

この不思議な図書室は、稀覯の書籍や、珍奇な稿本や、未知の文献の宝庫であつた。その中の多くは宗教的な紋章を捺印してあつたが、それらはイタリヤ、サルデニヤ、ドイツの修道院から到来したものであつた。僧院の火災や掠奪から難を免れたこれらの資料は、百年ばかり前に世を去つた二人の博識な僧によつて、一つまた一つと、研究と忍耐とを以て蒐集されたものであつた。
(中略)
古代のものとしては、先づ第一に、例へば、サマリヤのヘブル語から転写された正真正銘の原本(テクスト)が幾つかあつて、その意義は、その真の鍵を握ってゐた少数の道士ら以来、解釈せられずに留まつてゐたものであるが、それが幾人かの修道士によつて書かれた注解の中で、幾通りかのやりかたで提案されてゐたのである。
(齋藤磯雄訳;原文の一部を、現代漢字に変更した)


引用は、第七章「未知の図書室」から。この一章をまるまる充てて、妖しの館と呼ばれたファブリヤニ伯爵邸に設けられた壮麗で神秘にみちた図書室について描いている。
リラダンは、自らが愛してやまない古代世界の精神を一歩も外すことなく、作品のなかに理想の極致を描きつづけようとした。この章についても然り、彼の理想の極致としての図書室と、書物に纏わる哲学を饒舌に語っている。

196. シュテファン・ツヴァイク 書痴メンデル

「書痴メンデル」(1929)、邦訳はみすず書房版『ツヴァイク全集3巻』に収録。第一次大戦下のウィーンを舞台に、カフェの一隅に坐りつづけた一人の書痴の姿を描いた短編である。

こうやって思うさまうっぷんを晴らしたので、固さがほぐれ、彼は心安く手まねきして、メモをいっぱい書きこんだ大理石の角テーブルに私をはじめて呼んだ。私にはまだ見当のつかない、愛書家の啓示の祭壇である。私はいそいで希望をのべた。磁気説に関する同時代人の著作、および後世のあらゆる著作、メスメルにたいする賛否の論争を手に入れたいというわけである。話しおえると、メンデルは射撃する前の射手そっくりに一秒ほど左の目をつぶった。しかし注意力を集中するこういうしぐさは、ほんとうにただの一秒しかつづかなかった。そのあとすぐに、目に見えないカタログから読みあげるように、二、三十冊の本をすらすらと数えあげた。しかもその一冊一冊について、出版社の名と発行年、だいたいの値段を言ってのけたのである。私は唖然とした。予期してはいたものの、まさかこんなにみごとだとは思っていなかった。しかし、私の唖然たるようすが彼には快かったらしい。なぜなら彼はすぐに記憶のキイをたたいて、私の主題のみごとな図書館司書的変奏を演奏しつづけたからである。あなたは夢遊病学者のことも知りたくはありませんか?・・・
(関楠生訳)


書痴といいながら、この人物を変人として描いたのではないというところが、この物語の読ませどころである。ツヴァイク自身が戦争に大きく運命を揺さぶられたことを思うと、余計にこころに沁みる。短いものの、非常に味わい深い一篇である。

195. スティーヴン・キング 図書館警察

「図書館警察」(1990)は、キング中期の作品集『Four Past Midnight』に収録の一篇。
作家自身のノートによれば、この中篇のアイデアは、ある日の朝食のテーブルで、当時七歳か八歳の息子が、 ”図書館をつかうのは好きじゃない、だって図書館警察のことが心配だから” と言ったことを覚えていたことから生まれたという。

さらにもうひとつ、貸出カウンターの正面に貼りだされていたポスターを見て、一月の寒気に匹敵する悪寒が背すじを走り抜けた。そこには、トレンチコートを着て帽子をかぶった男から身を縮こまらせて逃げようとしている、動顛しきった少年と少女の絵が描かれていた。(中略)男は星形のマークがピンでとめられた身分証明書を突きだしていた。奇妙な星形だった  頂点がすくなくとも九個はある。いや、十以上あるかもしれない。その下には、こんなメッセージが書かれていた。

 図書館警察の厄介になるべからず!
 よい子は本の返却日をかならず守りましょう!

(白石朗訳)


図書館は楽しさとともに或る種の恐怖を内包していると言われると、途端にそんな気がしてくる。思い返してみると、子どもの頃の古い図書館には、薄暗い閲覧室、高い書棚、古びた本のにおい、眼光鋭い老司書・・・、たしかに恐怖の種が幾つもあった。何もアメリカだけの都市伝説でなくてもよかったわけである。おっと!わたしも返却日を忘れないようにしようっと。

194. P・K・ディック 逆まわりの世界

「逆まわりの世界」(1967)は、ディック中期の長編。近未来の時間逆流現象下の世界を描く。
面白いのは、時間の逆転といってもDVD動画を逆転再生するような単純なものとして描いているのではなく、もっと超現実的で混乱した世界として、まさにディックらしい悪夢の世界として描いていることだ。そしてそこでは、「図書館」も独特の役割と機能を持っている。


「図書館におけるわれわれの仕事は、資料を調べたり、もしくは暗記したりすることではない。それを消去するのが仕事だ」アップルフォードはいった。
(小尾芙佐訳)


逆まわりの世界という平凡な主題もディックにかかると一捻りされてあっというまに悪夢の世界に落ち込んでしまう。ディックらしく、設定も展開も大雑把で、結局物語は破綻してしまう運命にあるが、それでいて充分に迫力があり読み応えがあって愉しませてくれるのだから、これはもうさすがはディックというしかないのだろうか。

193. ボルヘス バベルの図書館

「バベルの図書館」(1941)、詳細は拙ブログの『図書館訪問記、建物篇(1931)』、及び『同、蔵書篇(1921)』を参照のこと。

(他の者たちは図書館と呼んでいるが)宇宙は、真ん中に大きな換気孔があり、きわめて低い手すりで囲まれた、不定数の、おそらく無限数の六角形の回廊で成り立っている。どの六角形からも、 それこそ際限なく、 上の階と下の階が眺められる。回廊の配置は変化がない。一辺につき長い本棚が五段で、計二十段。それらが二辺をのぞいたすべてを埋めている。その高さは各階のそれであり、図書館員の通常の背丈をわずかに超えている。棚のない辺のひとつが狭いホールに通じ、このホールは、最初の回廊にそっくりなべつの回廊や、すべての回廊に通じている。・・・
(鼓直 訳)


この図書館の形状にちなみ開発されたのが、近代の六角形型鉛筆である。鉛筆の軸になる木は最初は平板の形をしている。これに芯を入れるための数本の溝が彫られ、接着剤が塗られる。溝に芯を置き、上から同じ形の板を逆さまに向かい合わせにかぶせるように置いて圧着させる。あとは断面が正六角形になるように片面ずつ削り、細長く切り分けると完成である。原木は、日本では北米産シダー材が使われるが、わたしのお気に入りはインドで使われるヒマラヤスギである。ブランドは「NATARAJ」(Hindustan pencils)、これがなければもう三菱でもトンボでもファーバー・カステルでもいいや。

192. アルフォンス・ドーデー 法王のらば

「法王のらば」は、短篇集『風車小屋だより』(1869)に収録の一篇。
この連作集には、プロヴァンスの片田舎の風車小屋を買い取り居を構えた作家の、田園生活や旅の物語が綴られている。南仏地方の自然や民話や動物についてのユーモラスでゆったりとした筆致が快い。実際には風車小屋に住んだというのがフィクションだったにしても。

プロヴァンスの農夫たちが、話を美しくするために使う、あらゆるおもしろいことわざや格言のうち、これほどすばらしい、これほどふうがわりなものを私は知らない。風車小屋の周囲十五里以内では、執念深く、復しゅうに燃えている男のことを話す時、『あの男にきをつけろ!・・・・・・七年間足げを企んでいた法王のらばみたいなやつだぞ。』という。このことわざがどこから起ったのか、法王のらばとは、また七年間企んでいた足げとは何のことか、私はずいぶん長い間、探してみた。(中略)
  そりゃきっと せみの図書館 だけにあるんでしょうよ。と笛吹きじいさんは笑いながらいった。
なるほどと思った。せみの図書館なら、すぐうちの前にあったから、一週間ばかり通いつづけた。
これは驚くべき図書館で、すばらしく充実し、日夜詩人に開放されて、たえず音楽を奏しているシンバルたたきの小さな図書係りが、用を達してくれる。私はそこで気持のよい数日を送り、一週間  仰向けになって  研究の結果、ついに私の望みのもの、すなわち例のらばと七年間企んでいた有名な足げの物語を見つけだしたのである。(桜田佐訳)


<法王のらば>よりも、この<せみの図書館>という言い回しに驚いた。まさに、これほどすばらしい、これほどふうがわりなものを私は知らない、である。ただこれがドーデー独自の比喩なのか、そんな慣用句がフランス語にはあるのかどうかは、寡聞にして知らない。そうだ、フランスでは、蝉はプロヴァンス地方にしかいないとも聞いたのだが、これも怪しいかな?

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