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209. サリンジャー ド・ドーミエ=スミスの青の時代

「ド・ドーミエ=スミスの青の時代」は、短編集『ナイン・ストーリーズ』(1953)に収録の一篇。
作品のタイトルは、ピカソの<青の時代>を踏まえたものであるらしい。

わたしは十九歳、無帽を気取り、一インチほどの面皰だらけの額から、さして清潔でもない黒髪をヨーロッパ・スタイルのオールバックに掻き上げていたが、そのわたしに向かって運転手は、場所柄を考えてのこととも思われる、低めた声で言ったのである。「よしきた、あんちゃん、ひとつそのケツを動かしてもらおうぜ」この「あんちゃん」が決め手だったと思う。わたしは少々身をかがめるだけの労さえ取らず、すなわちこの運チャンのように人には聞かせぬように、あくまで礼節を守ってという配慮すら示さずに、フランス語で彼に言ってやったのだ  彼は粗野で、愚鈍で、横柄な低脳であり、わたしがいかに彼を嫌悪するか、とうてい彼には見当もつかないであろう、ということを。そして、いささか軒昂となったわたしは、おもむろにバスの「奥へつめて」やったのである。
(野崎孝訳)


まだこの作品集では、グラース家の物語は始まっていないのであるが、既にここにはシーモアが居り、バディが居り、フラニーやゾーイーがいるような気はするのである。ほんとうに居るかどうかは、ちゃあんと読み返さないとわからない。村上さんに改訳される前に読まなくちゃと思う。


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208. ルナアル 青い木綿の雨傘

短編集『ぶどう畑のぶどう作り』(1894)は、ルナアル、30歳の作品。その時代の人間と自然を優しい目でみつめたスケッチのような作品を集めている。

彼らは、路を離れるといきなり、原っぱをつっ切って、茂った木立ちのほうへ走って行こうとした。ところが、その木立ちは、あんまり遠すぎてなかなか行き着けそうにない。ポオリイヌとピエエルはもうこれ以上行くことはできない。恋心に頭がくらんで、草原のまんなかに、赤ちゃけた草と陽に褪せた花の中へ、からだを投げ出した。ポオリイヌが大きく拡げた雨傘の陰に二人はからだを投げ出した。
路に人影が見えないと、青い木綿の雨傘は動かないでいる。・・・
(岸田国士訳)



「青い木綿の雨傘」も、その中の一篇である。若い恋人たちの様子を、短い寓話のようにまとめている。その観察の眼は、"慎ましい微笑"に覆われているが、同時に少し鳥瞰的で少し高踏的でもある。『にんじん』のように直截的ではなく、『博物誌』のように軽妙でもない。


207. デュマ・フィス 椿姫

わたしはパリに行く度に(本当は一度だけしか行ったことがないわけだが)、通りの向こうから青い箱馬車がやってこないかどうか見渡してしまう。それはもちろん時空を越えてあのマルグリットが現れないかと思っているからである。それが無理ならプリュダンスさんでも・・・、

私はシャン・ゼリゼでよくマルグリットに遇ったことを思い出した。彼女は毎日欠かさず、たくましい二頭の鹿毛の馬に引かせた小型の青い箱馬車に乗ってやってきたものだ。そしてまた彼女には、そういうたぐいの女にはあまり見かけないような、一種の気品がそなわっていたことを思い出す。それは比類のない美しさをさらにいっそう引き立てるような気品であった。
(吉村正一郎訳)


「椿姫」(1848)を久しぶりに読む。すると最近読んだ丸谷才一の「持ち重りのする薔薇の花」という小説のことを思い出した。少しばかり物語の構成が似ているのである。二人の男の会話の中で物語が回想される。聞き手は、椿姫では作家であるし、後者では編集者である。そして、共に恋愛譚が展開されていくことになる。しかし、似て非なるものでもある。前者がデュマ・フィスが20歳で書いた純愛物語であるのに対し、後者には谷崎や川端流の淫靡さが混じっている。どこで、こんなに違ってしまうことになったのか。ひとつ思うのは、共に自分の年齢にふさわしい作品を書いたということである。

206. ユイスマンス さかしま

「さかしま」(1884)の主人公のデ・ゼッサントは、パリを遁れ郊外に隠棲の居を構える。俗人や喧騒のみだりに侵入しない土地で、心の安らぎに浸ろうと目論んだのである。買い取った家に徹底的に手を入れ、そこに人工の理想郷を作り上げようとする。・・・そしてその世界で「青」は、重要な位置付けを持つ。

久しい以前から、彼は色調のあらわす真摯性および欺瞞性というものに精通していた。(中略)
彼が望んだのは、燈火の人工的な光に照らされて、はじめてその特色を遺憾なく発揮するような色彩であった。昼間の光のもとで、どんなに没趣味な色に見えようとも、それは彼の意に介するところではなかった。なぜなら、彼の生活はほとんど夜に限られていたからである。(中略)
そうしてみると、文学や芸術の訓練を受けた、洗練された鑑識眼の人間しか残らないことになる。理想を夢み、幻影を求め、寝台の行為にヴェールをかけることを要求する一部のひとの眼が、一般に青色や、それと同系統の色、たとえば葵色とか、藤色とか、真珠色とかによって慰められるのにちがいない、と彼には思われた。もっとも、そうであるためには、彼らが情に動かされやすい性質を失わず、彼らの人格を狂わせるような限界を越えず、より純粋な紫色へ、より生粋な灰色へと、その嗜好を変化させて行くことが必要であろう。
(澁澤龍彦訳)


かくして、青とオレンジ色を基調としたみごとな書斎ができあがる。当然ながらこのデ・ゼッサントの書斎は、ドン・キホーテが作り上げた騎士物語の殿堂とも、ネモ船長が有する壮大で実際的な図書室ともかけ離れた、神秘的象徴主義の所産である。書斎に並ぶのは、彼が愛する頽唐期のラテン文学であり、ボオドレエルでありマラルメであり、モロオなどの幻想絵画であり、珍奇な宝石や香料や花々である。この書斎のなかで、彼は、ひたすら感覚と趣味とを洗練させて人工的な夢幻の境に逃避しようとする。

☆エジプト・ファイアンス

古代エジプトで作られた青い焼き物 「ファイアンス」、主に埋葬や祭祀に関わる品々や、装飾タイルに用いられた。この光り輝く青は、死の色であると同時に、生命/甦りの色でもあったのだという。


小LONDON 588


ところで、ミュージアムグッズでおなじみの青いカバ、わたしも大好きである。古代エジプトで作られた当時のカバ像は、世界で約60個ほどが現存する。ルーブルのもの、Metのもの、大英博物館のもの、三鷹の中近東文化センターのもの・・・、それぞれ表情も紋様も少しずつ異なるのだそうだ。

ちなみに、「マイピクチャー」を探してみると、写真がありました。
しかし、このカバ、色褪せてるなぁ。3000年も4000年も前の青!

205. アルフレッド・ポルガー すみれの君

「すみれの君」(1920年頃)、邦訳は池内紀編・訳の短編集『ウィーン世紀末文学選』に収録。第一次大戦後のウィーンを舞台にした、”軽妙にして優雅な”掌編である。

ルドルフ・フォン・シュティルツ伯爵はフランツ・ヨーゼフ皇帝麾下の中尉にして骨の髄まで騎士だった。連隊にあってワルツを踊らせては右に出る者がなく、並外れてのトランプ好きで山のような借金があり、色ごと、決闘沙汰は数知れない。きざなほどノンシャランな態度や物腰、歩き方、もの憂げに鼻にかかった声からしても、典型的なオーストリア貴族というものだった。伯爵は湯水のように金を使った。女友達には目をむくような高価な品を贈り物にした。きまってパリ特選の香水(パルムのすみれ)を添えてやる。そんなこともあり、かつまた陽気にのぞきこむ淡青色の眼のせいもあって、劇場筋の女たちから〈すみれの君〉とよばれていた。
(池内紀訳)


いったい菫色というのはどこに属するのか。たとえば、ホフマンのクルミ割り人形の洋服の色!中世の諸侯にあれほど愛された花!
青の仲間か、それとも赤のグループか。わたしは、もちろん青に属すると信じているのであるが、頷かない者も多い。また紫だろうと無粋なことを言う輩もある。いったい・・・。
そんなとき、青派にとって頼もしい文献が出て来た。それが本作である。世紀末のウィーンではそれは淡青色に似たものであった。

204. E.T.A.ホフマン 黄金の壺

「黄金の壺」(1814)は、『カロ風幻想作品集』の一篇として発表された。作者自身によって「新しい時代のメールヘン」と銘打たれている。"おとぎばなし的な不可思議なことどもが傍若無人にどかどかと日常の現実に入りこんで、登場人物たちをひっとらえていくさま"を描こうとしたものだという。・・・まさに!

「さあ、着きましたぞ!」
アンゼルムスが夢から醒めたようにあたりを見まわすと、そこは四方を本棚にかこまれた天井の高い部屋で、ふつうの書斎や図書室とどこも変わったところがありません。まんなかに大きな仕事机、そのまえに布張りの肘掛け椅子。
「ここが」と、リントホルストが言いました。「さしあたってのあんたの仕事部屋だ。そのうちに、あんたがさっき突然わたしの娘を呼んだ、あの青い図書室で仕事をしてもらうかもしれんが、さきのことはまだわからん。  だがいまは、与えられた仕事をほんとうにわたしの希望と要求どおりに果たす能力のあるところを、まず見せてほしいですな」
(大島かおり訳)


この作品の主役はなんといっても金色の蛇と黄金の壺、すなわち<GOLDEN>であることは間違いのないところである。しかし!一方で、通奏低音のように、絶えず響いてくるもうひとつの色相がある。極めて重要な役割を担う。それが、<青>だと思うのである。
アンゼルムスの着ている青みをおびたグレーの燕尾服、ヴェロニカの青い眼、書記官が巻く青い手拭、暖炉の青い火、闇夜にうねる青い稲妻、そんなものに導かれながら物語の最後にたどりつくのは、黄金の壺が置かれている青い部屋!・・・そしてなによりも、金色の蛇=ゼルペンティーナの魅惑的な濃い青のひとみ!!


203. バルザック 才知ある人々に模範として・・・

「才知ある人々に模範として贈る二匹の虫の恋」(1842)、邦訳は水声社版の『バルザック幻想・怪奇小説選集』に収録。・・・動物寓話集のなかで一番長い話である。構成もちょっと込み入っていて、”エンジムシと人間の二つの恋愛譚が重なるかたちで進行する”ということが呑みこめるまでに時間がかかったかもしれない。でも呑み込めたらあとはもう愉しむばかり、鳥獣戯画を思わせるようなグランヴィルの挿絵と併せて、バルザックの寓意をたのしむばかりである。

ジャルペアドは、パリでいちばん奇天烈なものといえば自分自身だと思っていた。まるでヴェルサイユにおかれたジェノヴァの共和国の統領のようなものである。それに、彼は背丈が小さくスマートで、目鼻立ちの美しさで目立つ少年であった。たぶんすこしひょろ長い足だったが、宝石をちりばめ、三方がプレーヌのように反り返っているブーツを履いていた。祖国<カクトリアーヌ>のモードにならって、シャルル十世の聖別式の高位の聖職者の祭服も恥じるような聖歌隊長の祭服を背に引っかけていた。祭服はアラベスク模様におおわれ、青金石(ラピスラズリ)の地にダイヤがケシ粒のようにちりばめられ、サイドボードの両開きのとびらのように二等分に割れていた。(私市保彦訳)


それにしても、このアラベスク模様におおわれたラピスラズリの祭服!いちどこの眼で見たいものだ。例えば、パリではなく、時代も異なるが、アルハンブラの美しい宮殿にすくっと立つこの王子の姿を見てみたいものだと思う。・・・引用は第二章『ジャルペアド王子殿下』から。王子とは、祖国からパリに連れられてきたエンジムシの王子である。美しい赤色色素の原料として珍重されたエンジムシ(カイガラムシ)の王子が、青金色の祭服を身にまとうという皮肉さを笑おうというのではないので、念の為。わたしは、この美しい王子の姿と恋愛譚を、素直に楽しみたいと思うのである。

202. マルグリット・ユルスナール 青の物語

「青の物語」(1930年頃)は、わずか10ページほどの掌篇ながら、まさに青づくしといった趣向で酔わせてくれる。<kind of blue>の世界を彷徨うには必携の書なのである。
では、どんな小説か、乱暴なことをいえば「青に取りつかれた男、あるいは女の見た夢」のようなものである。小説というよりもっと凝縮された散文で、詩に近いような作品。冒頭から繰り出される青のイメージにいきなり圧倒されてしまうと、あとは10ページなどあっというまなのである。

ヨーロッパから来た商人たちは、甲板にすわっていた。青い海を前に見ながら、灰色の布をたっぷり当てて繕った帆の投げかける藍色の影の中にいた。日の光は幾本もの綱の間で絶えず動いていた。そして船が横に揺れると、その光はまるでボールのように、目のとても粗い網の外へ飛び出してゆくのだった。暗礁を避けるために船は絶えず船首の向きを変えていた。そして注意深い水先案内人はその青い顎を撫でていた。
(吉田可南子訳)


青い海、水先案内人の青い顎、敷石に走る青味がかった筋、褪せた青い色の絨毯、セイレーンの尾のように青い空、ケンタウロスの青くて毛足の短い尻のふくらみ、半球型の青金石だろうと思ってつかんだ亀、・・・。溢れんばかりの青のイメージに圧倒されてしまう。しかし、言葉だけで物語が無いということではないので心配は無用。見事に物語は語られ、そして閉じるのである。

もちろん短すぎて、もう少し書き連ねてくれたならと思ったりはする。訳者解説にあるように、ほんとうは「赤の物語」や「白の物語」を書き足してひとつの短編集を編みたいというような意向が作家にはあったらしいということを知ると、ついに書かれなかった物語をたまらなく読んでみたくなる。でもしかし、これでよかったとも思う。世界にはほんの短い時間にしか見えない青い玉のようなものがあるのだと思ったりするのである。

201. フランツ・ブライ 文学動物大百科

ブライ(1871-1942)は、ウィーン生まれの作家。「同時代人の肖像」、「わが生涯の物語」などの作品がある。また、カフカを逸早く認めたことでも知られる。『文学動物大百科』(1920)は、同時代の作家たちを動物に見立てて綴った掌編集である。

「カフカ」
めったに目にできない、まっさおな色をしたネズミ。肉は口にせず、にがい味の薬草をたべる。このネズミに見つめられると身動きができない。人間の眼をもつからだ。(池内紀訳)


この一節をみつけたときは、思わず快哉を叫んだ。
わたしも、カフカにこそ「青」はふさわしいと思っていたからである。

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