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249. ナボコフ 初恋

コレットの「青い麦」は初恋譚であるし、ナボコフの「初恋」にはコレットという少女が登場する、青い服を着て。   それにしてもナボコフの初恋譚!である。

浜辺で褐色に濡れている場所、引き潮のときには最高の泥の城をこしらえられるあの場所で、ある日、私が砂を掘っていたら、たまたま隣り合わせになったのがコレットというフランス人の少女だった。
彼女は十一月で十歳になるところ、私は四月で十歳になったところだった。彼女がほっそりした指の長い足で、菫色の紫貝を裸足で踏んづけてしまい、そのぎざぎざになった貝殻に注目が集まった。ううん、ぼくは英国人じゃないよ。目鼻立ちのくっきりした彼女の顔のそばかすが、緑がかった目にもかすかにあふれているみたいだった。着ているものは今で言う遊び着で、袖をまくり上げた青のジャージーと青のニットのショーツという組み合わせだ。最初は男の子かと思いこんでしまい、よく見ると細い手首にブレスレットをしているし、セーラーハットの下から螺旋状になった茶色の巻き毛が垂れ下がっているので、不思議に思ったものだ。
(若島正訳)


「初恋」(原題は「コレット」)、は、作品集『ナボコフの一ダース』(1958)に収録。英語で書かれた短編である。
この作品は、作家自身の注釈によれば、・・・(実名を避けたことを除けば)あらゆる細部において作者が記憶している人生と違わない、のだという。


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☆青牛に乗った老子

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〈青牛にのって西の彼方へ消えていく老子〉、というイメージは、確かにわたしの頭のなかにもある。しかし果してそれがどこから来たイメージなのか?史記も、老子伝も、もちろんまともに読んだことはない。とすれば、手塚治虫か諸星大二郎あたりか・・・。そんなことから、ひとつ、老子入門書でも読んでみるかと手をのばしてみたのだが。新井満、「自由訳 老子」(2007)、である。

何かまとまったものを書きのこしておくのも、悪くないかもしれない。関所の長官がそこまで熱心に言うならば、ひとつ誘いに乗ってみるか。どうせ、急ぐ旅でもないし・・・。老子は頷くと、青牛の背中から地面におりた。それから、案内されて関所に隣接する長官の客室に向かったのだった。
十日ほどが過ぎた。
老子は筆を置いた。机上には、上下篇五千余文字の書きおろし原稿がのせられていた。題名もなければ著者名もない、不思議な原稿であった。いよいよ旅立ちの時である。再び青牛の背中にまたがった老子に向かって、尹喜は深々と頭を下げた。(中略)
老子をのせた青牛は、のそりと動き出した。西に向かってゆっくり遠ざかり、小さくなり、やがて地平線の彼方に消えた。(中略)
尹喜が老子の姿を見たのは、それが最後であった。老子は、どこへ行ったのか。その後の消息を知る者は一人もいない。だがしばらくすると、あちらこちらでこんな噂がまことしやかにささやかれるようになった。
「西に向かった老子様はなあ、あれからインドに渡り、ブッダという聖人におなりになったんだそうだ…」
(新井満、「自由訳 老子」(2007))



引用は、史記の老子伝をもとに、新井満が脚色し書き写したというもの。『自由訳老子』の末尾に、<「あとがき」に代える八つの断章>として付された文章の一部である。

ところでこの青牛は、後に天上から追放され青牛怪になる。(太上老君(老子)の目を盗んで下界に逃げてきたという説もある) すなわち、西遊記の獨角兕大王である。もうひとつわたしの疑問は、これって水牛?


☆ 露草

徳富蘆花曰く、”花では無い、あれは色に出た露の精である”。


18542.Commelinaceae - Commelina coelestis
 (画像;Robert Sweet、『The British Flower Garden』(1823-29)


然しながら碧色の草花の中で、彼はつゆ草の其れに優(ま)した美しい碧色を知らぬ。つゆ草、又の名はつき草、蛍草、鴨跖草なぞ云って、草姿は見るに足らず、唯二弁より成る花は、全き花と云うよりも、いたずら子に毟られたあまりの花の断片か、小さな小さな碧色の蝶の唯かりそめに草にとまったかとも思われる。寿命も短くて、本当に露の間である。然も金粉を浮べた花蕊の黄に映発して惜気もなく咲き出でた花の透き徹る様な鮮やかな純碧色は、何ものも比ぶべきものがないかと思うまでに美しい。
つゆ草を花と思うは誤りである。花では無い、あれは色に出た露の精である。姿脆く命短く色美しい其面影は、人の地に見る刹那の天の消息でなければならぬ。里のはずれ、耳無地蔵の足下などに、さまざまの他の無名草、醜草まじり朝露を浴びて眼がさむる様に咲いたつゆ草の花を見れば、竜胆を讃めた詩人の言を此にも仮りて、青空の気、滴り落ちて露となり露色に出てこゝに青空を地に甦らせるつゆ草よ、地に咲く天の花よと讃えずには居られぬ。「ガリラヤ人よ、何ぞ天を仰いで立つや。」吾等は兎角青空ばかり眺めて、足もとに咲くつゆ草をつい知らぬ間に蹂みにじる。碧色の草花として、つゆ草は粋である。
(徳富蘆花、碧色の花、1913)



けだし、名言であると思う。なんて言いながら、いつも歩く堤防の道で、わたしもどれだけの露草を知らぬまに蹂みにじってきたことか。ああ我らはとかく青空ばかり眺めたがる。


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248. コレット 青い麦

「青い麦」(1923)、16歳の少年フィルと、15歳の少女ヴァンカの物語。
第一次大戦後、彼女の円熟期に書かれた一篇。堀口大學の訳文もすばらしい。

ヴァンカの眼は、朝の海と青さを競っていた。
(堀口大學訳)


名作に余分な説明は要らないのはもちろん、このたった一行の引用だけでもうこの作品のすばらしさがわかると思うのだがどうだろうか。




247. カフカ 中年のひとり者ブルームフェルト

「中年のひとり者ブルームフェルト」(1915)、邦訳は池内紀編『カフカ短編集』(岩波文庫)に収録。カフカらしい寓意にあふれた作品。登場するのは、ブルームフェルト氏の他に、青い模様の入った二つのポールと、職場の二人の助手。

七階にたどりつき、ドアの前でポケットから鍵を取り出したとき、自分の部屋で変な物音がしているのに気がついた。勢いのいいカチカチという音が規則正しくつづいている。つい今しがたまで犬のことを考えていた矢先なので、犬が交互に前足で床を叩いているのかと思った。しかし犬の足はカタカタと音をたてたりはしないだろう。いや、犬ではない。彼はいそいでドアをあけて電気をつけた。意表をつくとはこのことだろう。まったく魔法じみている。青い模様入りの小さな白いセルロイドのボールが二つ、かわるがわる上がったり下がったりしているのだ。
(池内紀訳)


カフカは同じ女性と二度にわたって婚約し、解消するという経験をしている。この作品はその二度の婚約(と解消)の間に書かれたらしい。だからなんだということではないのだが。・・・青い模様の入った二つのポール、使えない職場の二人の助手、そして二度の婚約と解消、やはり気になる。いっそブルームフェルト氏が双子ならよかったのに(笑)



☆ アーノルド・ローベル いろいろへんないろのはじまり

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ローベル(1933-1987)は、アメリカの絵本作家。70冊以上の作品がある巨匠である。邦訳は、詩人の三木卓が手がけた作品が多い。「いろいろへんないろのはじまり」(1968)は、こんな話である。・・・ずっと昔、色がなかったころ。ほとんどのものが灰色だったので、”はいいろのとき”と呼ばれていた。そんなとき、ひとりの魔法使いが「青い色」を発明した。近所の者にも分けてやったので、世界はあっというまに青色に。”あおいろのとき”の始まりである。

でも、あおいろは そんなに よくなかったのです。
やがて あおいろのために、
みんな、なんだか かなしいきもちに なりました。
(まきたまつこ訳)



んなことないよね!
そんなことはない筈だと、わたしは叫びたい。
”あおいろのとき”がむしろ待ち遠しいものだとわたしは思うのでした。




246. 泉鏡花 天守物語

「天守物語」(1917)は、鏡花、44歳の作品。十八番の妖異譚。生前は、上演されることのなかった戯曲である。引用部は、物語の冒頭、姫路城の天守に住む富姫が、折しも語りだすところ。

その雨を頼みに行きました。  今日はね、この姫路の城・・・ここから視れば長屋だが、・・・長屋の主人、それ、播磨の守が、秋の野山へ鷹狩に、大勢で出掛けました。皆知っておいでだろう。空は高し、渡鳥、色鳥の鳴く音は嬉しいが、田畑と言わず駈廻って、きゃっきゃっと飛騒ぐ、知行とりども人間の大声は騒がしい。まだ、それも鷹ばかりなら我慢もする。近頃は不作法な、弓矢、鉄砲で荒立つから、うるささもうるさしさ。何よりお前、私のお客、この大空の霧を渡って輿でおいでのお亀様にも、途中失礼だと思ったから、雨風と、はたた神で、鷹狩の行列を追崩す。  あの、それを、夜叉ヶ池のお雪様にお頼み申しに参ったのだよ。(中略)
私はね、群鷺ヶ峰の山の端に、掛稲を楯にして、戻道で、そっと立って、視めていた。そこには昼の月があって、雁金のように(その水色の袖を圧う)その袖に影が映った。影が、結んだ玉ずさのようにも見えた。  夜叉ヶ池のお雪様は、激いなかにお床しい、野はその黒雲、尾上は瑠璃、皆、あの方のお計らい。それでも鷹狩の足も腰も留めさせずに、大風と大雨で、城まで追返しておくれの約束。鷹狩たちが遠くから、松を離れて、その曠野を、黒雲の走る下に、泥川のように流れてくるに従って、追手の風の横吹。私が見ていたあたりへも、一村雨颯とかかったから、歌も読まずに蓑をかりて、案山子の笠をさして来ました。ああ、そこの蜻蛉と鬼灯たち、小児に持たして後ほどに返しましょう。


この流れるような文章に打ちのめされないものがいるだろうか。おまけにこれは戯曲であるのだから、役者の声で朗々と読み上げられでもしたら、陶然とするか気絶してしまうのか。




☆ヤン・ファーブル  The Years of the Hour Blue

去年の夏、ウィーンの美術史美術館の「ヤン・ファーブル展」は、『The Years of the Hour Blue』と名されて実施された。まさに”青い時間”シリーズの集大成というべき展覧会であるが、それだけではない。ここでは、ヤン・ファーブル自身の作品が単独で展示されるのではなく、美術館所蔵の作品を巻き込む形のインスタレーションが中心になったのが特徴であり、魅力なのである。


Fabre 3


こんなふうな展示が行われた。なんとまあ、ここではまさに”青い時間”そのものを味わうことができる、というわけである。しかし、クラナッハもティントレットもカラヴァッジョもルーベンスも、どれもみんな見事に青まみれなのである。見事である。しかしひとつ言えることは、これが常設展になることはないだろうな。



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245. ジャン=アンリ・ファーブル 昆虫記

『昆虫記』(1879-1910)、岩波文庫版の第六分冊に「色彩」という章がある。或る種の昆虫が持つ美しい色彩の秘密について記していて興味深い。もちろん、話の導入部は、”ふんころがし”についてである。

Phaneus splendidulus = かがやくもの かつかくたるもの (るりだいこくこがね)、公式のラテン語学名はパンパスのだいこくこがねのうち一番美しい奴を指すのにそう呼んでいる。この名前にはなんの誇張もない。宝石の閃光と金属の輝光とを取り合わせたこの虫は光の射す角度に従って碧玉の緑の映りと銅の赤い閃光を放っている。(中略)
山間の渓流の岸のはんのきや楊柳の賓客である碧い鎧虫は、見た目には空の藍よりも和やかな、また落ち着いた見事な空色である。それに太刀打ちできる飾りは蜂雀の咽喉か、熱帯地方産のある蝶の翅にしか見つからない。
こんなふうにお粧しするのに虫の輩はどこのゴルコンドでそんな宝玉を見つけるのか。どの金鉱床から砂金石を取ってくるのか。
(山田吉彦、林達夫訳)



これにはもう付け足すことは無い。昆虫記の続きを読んで、その色彩の秘密について読み明かすだけである。
と思ったけど、一つだけ、補足を。 ジャン=アンリ・ファーブルを曽祖父として持つ美術家のヤン・ファーブルは、「Blue Hour(青い時間)」という作品シリーズを展開している。それはジャン=アンリ・ファーブルのこんな記述を基に発想したものであるらしい。・・・『Blue Hourと は、昆虫たちが眠りに就く時間、夜の動物たちが寝静まり、昼の動物たちが目をさます、そのはざまの時間。闇と光のあいだに横たわる静寂の瞬間。その時を過ぎて初めて、もういちどあらゆるものが現れ、飛び出して来る、そんな時間。』


☆舟越桂

舟越桂の作品に、青が塗られてきたのは何時頃からだろうか。
気がつくと、木の色そのままではなく、また着色された衣服をきているのでもなく、裸像の肌そのものに青い色が化粧のように塗られている作品が多くなっていた。


舟越桂


下地には、アクリル絵の具の白を濁らせたものを塗っている。
それをサンドペーパーで削り落とす。木の色に助けられていると思う。
肌色は、油絵の具を使っている。頬に赤みがほしいときは、絵の具が乾かないうちにパステルの粉を飛ばしている。
胴体は、アクリル絵の具を使うことが多い。テカリを出したくないときは、石の粉を混ぜたりしている。伝統的な技法にはこだわりがないので、自由にやっている。
(舟越桂「彩色について」)



2010年の金沢21世紀美術展の『ヤン・ファーブル×舟越桂』展を見たときに気が付いたのは、ヤン・ファーブルが青を通りすぎてきたのに対し、舟越さんの方は青に向かってきているということ。しばらくは、この青の時代を眺めていたいものだと思う。



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