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814. ジャック・フィニイ 独房ファンタジア (画家小説百選)

フィニイ


「独房ファンタジア」は、フィニイの第二短篇集『ゲイルズバーグの春を愛す』(1962)に所収。
邦訳のハヤカワ文庫版では、内田善美の描いた表紙絵が美しい。



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さて、獄中の彼は、独房の壁に何の絵を描こうというのか?
この短篇の読みどころは、その点に尽きる。

その木曜日、典獄のデスクの上には、死刑囚監房から三通の請願書がとどいていた。典獄は、朝の郵便に目をとおすよりも先に、それを取りあげた。 (中略)
三通目の請願書はスペイン語で書かれていたが、これは強盗を働いて中国人の食料品店主を殺した罪に問われた、若いメキシコ人のよこしたものだった。 (中略) 彼は死刑囚監房からの三通の請願書の最後の一通を読みはじめた。
それは、油絵具、画筆、パレット、木炭その他の画を描く道具がほしいという請願だった。
(福島正実訳)


この作品は、フィニイが得意とする時間旅行ものでも、次元転移譚でもないが、その分、ずっと幻想的な物語に仕上げられている。ロマンティックでさえあるかもしれない。そう思うのである。




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813. H・P・ラヴクラフト ピックマンのモデル (画家小説百選)

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ミステリやモダンホラーには、絵画がよく登場する。
“盗まれた名画の謎”とか、”贋作画をめぐる事件”だとか、あるいは絵のなかの人物が現れてきたり、逆に誰かが絵のなかの世界に入りこんでしまったりする”怪奇絵画”のはなしであるとか。
挙げていくときりがないくらいたくさんある。
ところが、だからといって『画家小説』と呼ぶにふさわしい作品があり余るほどあるってことにはならないのが辛いところである。
つまり、ミステリやモダンホラーというジャンルでは、絵が重要なテーマになる(あるいは事件の小道具として使われる)というような”絵画小説”は数多いものの、絵を描く人間の方に焦点を当てた”画家小説”というのは意外に少ない。と、わたしは思ったりするのである。
(いやそうでもないぞ、と思われたりする方は、コメントをいただければ幸いです)

実際に、画家小説百選のリスト作りの過程で思い浮かべていた候補作の内、例えば、ポオの「楕円形の肖像」や、オーガスト・ダーレスの「7人目の子供」は、いざ読み返してみるとどれも画家小説ではなくて”絵画小説”であることに気がついた。どちらもお気に入りの作品だけに残念である。とほほと泣く泣くリストから外したのでありました。

ピックマンが得意としたのは顔の描写だったのを覚えてるかい?全くの地獄の様相を事細かに、一連の顔つきや歪んだ表情を使って表現できたのは、ゴヤ以来ピックマンが初めてだと思う。ゴヤの前になると、ノートルダム寺院とモンサンミッシェルのガーゴイルやキメラを作った中世の連中まで溯らなければならない。
(黒瀬隆功訳)


そんな中で、ラヴクラフトの「ピックマンのモデル」(1926)は、なんど読み返しても立派な画家小説であった。作者に、世界に、感謝したい。そんな気持で読んだ。
ただ、この短編にも難点はある。
(世界ってそんなものだよね。本を読むにも苦労がある)
ピックマン氏をめぐる物語は、この短篇だけで完了するのではなく、あの壮大な『クトゥルフ神話』のなかに組み込まれていくことになる、ということに、遅ればせながら気がついたからである。
(迂闊な読者ってのはそんなものだよね。本を読むにもいろんな苦労がある)
以上、報告します。




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☆657. フランツ・カフカ博物館

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フランツ・カフカ・ミュージアムは、プラハのカレル橋の下のあたりの少し奇妙な場所にある。
日本で言えば、河川敷のゴルフ場があるような、川沿いの低い土地にあるのである。


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見つけにくい場所にようやく辿り着くと、待ち構えているのは、不思議なピンク色をした入口の”門”と、前庭に聳える大きな”K”の文字のモニュメントである。
そういえば、プラハは、「The City of K.」 と呼ばれることがあるそうだ。
もちろん ”K “ は、カフカの頭文字である。


franz kafka museum 01


ようやくカフカの町にたどりついたなぁ、などと勝手な思いに耽っていたら、そこにドヤドヤと現われるのは、新大陸からの観光客の一団である。あっというまに前庭が人でいっぱいになり、わたしの感慨もなにも、どこかへ飛んでいってしまって、あはれ海ならぬモルダウ川のもくずとなった。


a Kafkaesque passageway


そしてようやく”階段”のはなしである。
フランツ・カフカ・ミュージアムの館内に入り、地下の展示スペースに至る隘路のような階段は、なぜかこんなふうに赤い光を浴びている。
これを称して、”a Kafkaesque passageway” 、と言うとか言わないとか。

・・・階段を下りた向うに現われるのは、カフカの著作や手紙などの遺品と、彼が愛した女性たちのポートレイトである。



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812. ディック・フランシス 追込 (画家小説百選)

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「追込」(1976)には、主人公として画家が登場する。
とすれば、先のハモンド・イネスの作品に次いで、”なぜこの冒険小説の主人公は画家でなければならないのか?”という命題に再び取組むチャンスである。
しかし、そんな思いつきはあっというまに吹き飛ばされてしまった。この作品では、”贋作画”をめぐる物語が展開されるからである。なるほど、イネスの場合とは違って、ストーリー上の必然ってやつがあるわけだ。

土曜日に、仕事に倦み疲れて筆をおき、競馬に行った。
プランプトンの障害レースで、例によって、なめらかな馬体の動きにしだいに興奮が高まった。絵画は、あの美の神髄を描写することは絶対にできない。キャンバスにとらえられているあの一瞬は、つねに次善の姿である。
 私は、レースで馬に騎乗したくてならなかったが、それだけの経験も技術もなかったし、あえていえば、勇気もなかった。父はサセックスで競売業をやっていて、私は、ドナルドと同じように、中規模事業主の家庭で育った。幼少の頃から、フィンドン周辺の丘陵地帯で馬が調教されるのを始終見ていて、六歳の頃から馬の絵を描き始めた。
(菊池光訳)


「追込」は、ディック・フランシスの”競馬シリーズ”の第15作である。
・・・未読の方の為に、あえて書き添えると、この”競馬シリーズ(全44作)”の作品は、競馬小説でも競馬ミステリでもなく、英国流冒険小説の本流を行く作品群だと思うのである。もちろん、冒険小説と言っても、戦う相手は”大自然”ではなく、人間である。だから、ハードボイルドの探偵小説に近いとも言える。

そして、もうひとつ書き加えておこうと思うのは、競馬シリーズの主人公は、騎手や調教師や馬主といった競馬サークルに属する人物とは限らないということである。むしろそれ以外のさまざまな職業の人物が登場してくることも多い。・・・俳優、教師、記者、作家、銀行員、探偵、映画監督、英国諜報部員、等々、極めて多彩な職業の男たちが登場する。ただし、仕事や年齢や立場が変わっても、彼らはすべて同一人格の持ち主である。英国流冒険小説の主人公にふさわしい正義と矜持と不撓不屈の精神の持ち主である。だから、はっきり言えば、職業なんて何でもよい。

・・・ディック・フランシスの小説では、主人公の職業なんて何でもよい。
とはいえ、「追込」の主人公の仕事は画家である。
画家を主人公とする立派な冒険小説がここには展開されている。
贋作画をめぐる物語なので、画家が探偵役となる必然性もある。何の文句があるものか。
文句があるとすれば、第45作が読めないことだけである。



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811. ハモンド・イネス 報復の海

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ハモンド・イネスを読む。懐かしのイギリス流冒険小説である。
久しぶりだ。最後に読んだのは、どれくらい前だっただろうか。
少なくとも、マイクル・イネスを読む前だったと思う。

あれだけ夢中になった英国流冒険小説よりも、いつのまにか英国風探偵小説を多く読むようになった。といっても、スティーヴンソンからディック・フランシスに至るイギリスの冒険小説の愉しさを忘れてしまったわけではない。ただ、イネスはもちろん、ル・カレも、ヒギンズも、マクリーンも、バグリイも、ライアルも、そしてディック・フランシスも、たぶんもう未訳本や新作を待つわけにはいかないんだものなあ。

というわけで、イネスの「報復の海」(1962)である。
ここには、画家が主人公として登場する。
久しぶりに読んでもイネスはイネスだ。面白いに決ってる。
だから書くべきことはただひとつ。
なぜ、この冒険小説の主人公は画家でなければならないのか?

そのとき、私は、アレック・ロビンソンから頼まれた二冊目の本の装丁の仕事をしていたのだか、電話の後、ふたたび仕事に戻る気にはなれなかった。(中略)
ロンドンのイースト・エンドのざわめきが押し寄せてくる。私の部屋は、肉屋の上の屋根裏部屋なのだ。もっと広いところにうつる余裕はない。ベッドと机と画架が部屋の大半を占め、壁ぎわにはミロス島で描いた油絵が積み上げてある。歩く場所も、ろくにない。隅の戸棚には衣類が入れてあり、その上には、これまでに売れたわずか二点の絵の代金で買ったキャンプ道具が積んである。売れたのは『カイークから見た明け方のミロス島』と『水中のギリシア回廊』だ。これらの絵を描いているときに、レールグ島を描こうと思いたったのだか、結局、レールグ島へ行く許可は得られなかった。
(竹内泰之訳)


なぜ、この物語の主人公は画家でなければならないのか?
・・・これが意外に難問なのである。
もちろん、もうひとりの主人公である”彼の兄”が職業軍人であることと対照するという意味はあるのだろう。
”(冒険小説に於ける) 軍人の対極としての画家”、ただ、そんなふうに思っておけばいいのだろうか?




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810. E・T・A・ホフマン G町のジェズイット教会


ホフマン


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岩波文庫版の『ホフマン短編集』(全6篇を収録)を開くと、まず「クレスペル顧問官」(1819)が現われ、そして次に「G町のジェズイット教会」(1816)が出てくる。二作とも、みごとな芸術家小説なのである。
これはぜひとも二作品を合わせて読んでおきたい。前者は、音楽をテーマにしており、後者は、画家を描いた作品であるので、”画家小説百選”を掲げる当ブログの立場としては、後者だけを取り上げればいいようなものなのであるが、どうもそうはいかないという気がする。両者を合わせて読むことで、ホフマンの芸術家小説の面白みが初めてわかることになる、そんな気がするのである。

「あの画家はまったく変わった人です」
教授が話しはじめた。
「おとなしくて  善良で  よく仕事するし  誠実であって、この点は先にも申したとおりです。しかしいかんせん、頭が弱い。理性を欠いた人ですよ。さもなくてはたとえ罪を犯したことがあるにしても、人生におけるなにか一つの失敗だけでちゃんとした歴史画の画家からペンキ屋風情に身を落としたりしますまい」
教授の冷淡さにもまして「ペンキ屋」の一語に腹が立った。私は現在のベルトルトだって尊敬すべき芸術家であり、もっとあたたかい目で見てやっていいはずだと抗弁した。
「そう思いますか」
しばらく沈黙していたあと、ようやく教授は口をきった。
(池内紀訳)


同じ短編集には、あの名作、『砂男』(1815)が収録されている。だから言うわけではないが、先の芸術家小説の二篇には、幻想や怪奇の欠片もないので念の為。そんなものを期待して読むと待ちくたびれたままで終わってしまう。最後まで読んでも訪れるのは、主人公の死だけである。
いったい芸術家というのは、あらかじめ失われたものを追い求めて、結局は死の深い影のもとに消えていくものである、とそんなふうにホフマンは、途中美しい娘の姿をちらつかせながらも、そんなふうにホフマンは書きたかったのだろうか。
いやはや、芸術家小説は難しい。いつもホフマンの小説に登場する"美しい娘"の存在に眼を奪われてしまう身にとっては、余計に。




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809. チェスタトン 詩人と狂人たち

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『君達に全世界の秘密を語ってやろうか?われわれは世界のうしろ側を知っているだけなんだ。』
・・・同じチェスタトンの「木曜日の男」のこの一節には痺れました。以来、チェスタトンのミステリにはすっかり取り憑かれています。
『詩人と狂人たち』(1929、原題The Poet And The Lunatics)は、画家詩人”ゲイル”を主人公とした探偵譚を集めた連作短編集である。

「こいつは画家でしてね」と説明した。「といっても、かなり特殊な画家なんです。まあ、建物専門の画家といったところですが、かといって、普通、人が言う意味でのそれとも違うんです。びっくりなさるかもしれませんが、これでもこいつは王立美術院の会員ですよ   といっても、その会員にありがちな黴くさい画家とも類を異にしてますがね。若手の天才派中の一流画家で、この連中のひねくれた画廊に出品してるんです。ところがこいつの一生の念願と誇りは、宿屋の看板を塗り直しに歩き回ることにあるんです。こんな気まぐれをもった天才には毎日めぐりあえるものじゃありませんよ。この宿屋の名はなんというのですか?」
(「おかしな二人連れ」、中村保男訳)


連作集のそれぞれの短編には、入れかわり奇怪な人物(Lunatic)が登場し、かれらが引き起こす奇妙な犯罪や神秘的な事件を、これもLunaticを自称する探偵が解き明かすという仕掛けになっている。
ここには、チェスタートン風のモラリストらしい哲学や残酷なユーモアがある。怪しくてクールで謎に満ちていて不条理で、そして可笑しさもある。重厚でそしてポップである。チェスタトンのミステリというと、一に「木曜日の男」、次に「ブラウン神父シリーズ」ということになるのだろうが、この「ゲイル」シリーズもなかなかの迫力物なのでありました。





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