524. 1937年、聖金曜日の料理 (Today's Soup)

Guenter Grass,Die Blechtrommel,1959


ギュンター・グラスの「ブリキの太鼓」(1959) を読む。
この物語、邦訳では150頁ほど読み進めると、スープ・マニアにとっては特別なシーンが待ち構えている。特別なシーンというのは少し控えめな表現であるかもしれない。凄まじいとかショッキングなシーンであると書いておくのが親切かもしれない。わたしの場合だと、映画版のこのシーンでは、眼を塞いだ指を透してでしかスクリーンを見ることができなかったから。

  ぼくたちはとびながら海路標識のある突堤の先にやってきた。標識の下に沖仲仕の帽子に厚ぼったいヤッケを着た中年の男がすわっていた。わきにジャガイモの袋が置いてあって、それがビクついたり動いたりしていた。(中略)
  沖仲仕の帽子の男はありきたりの紐で、それもあきらかに浮きもなしに釣りをしていた。どうしてか、ぼくたちは知りたくて、母が少々のからかいをこめてたずね、男を「おじさん」と呼びかけた。(中略)
「はてさて、まあ一丁のぞくとするか」
  と男がマツェラートに言った。(中略)両腕をひろげ、花崗岩のあいだのブクブク泡を立てている海水にさし入れ、さぐり、つかみとり、つかみ直し、引っ張り上げ、「そこ、どけ」と声をかけて放り上げた。何やらしずくを垂らしている重々しいもの、何やらピクピクしている大きなかたまり。馬の首だった。まだ新しく、まさしくほんものの馬の首、黒馬の首、黒いたてがみの馬の首、昨日はまだ、一昨日はきっと高々といなないていただろう。いまだ腐っていない。匂ってもいない。せいぜいモットラウ川の匂いがするだけ。ともあれ突堤にその匂いが立ちこめた。
  沖仲仕の帽子の男は   帽子はいまや首筋にひっかかっていた   馬の首の上に仁王立ちしていた。その首からは淡い緑色の小さなウナギがつぎつぎと飛び出してきた。
(池内紀訳)


主人公のオスカル少年の一家は、このウナギを一包み買って帰り、聖金曜日の料理を作る。
料理は、”ウナギスープ・じゃがいも添え” である。



にほんブログ村 本ブログ 海外文学へ

ブログ村ランキング参加中、
クリックしていただけると幸いです



関連記事
スポンサーサイト

⇒comment

Secret

被災地の学生を応援しよう!
プロフィール

jacksbeans

Author:jacksbeans
ようこそ!
記事のカテゴリ区分は、
①自転車、②図書室、③青、④メキシコ、⑤フルーツ、⑥階段、⑦画家、⑧スープ、⑨音楽、⑩綠、です



にほんブログ村 本ブログへ

ブログ村ランキング参加中、
クリックしていただけると幸いです。

カテゴリ
月別アーカイブ
04  12  09  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04 
検索フォーム
最新コメント
最新記事
PVアクセスランキング/海外文学
リンク