74.グレアム・グリーン おとなしいアメリカ人

「おとなしいアメリカ人」(1955)は、インドシナ戦争時のベトナムを舞台とした長編小説である。語り手は、イギリス人の従軍記者「ファウラア」、彼の前に現れたひとりのアメリカ人「パイル」について描くかたちで小説は進行する。戦時下のベトナムを描くということになると、否応なしにアクチュアルな小説であるということになりそうであるが、実際には、戦時下における人間のこころの動きを捉えることが中心になっている。と思ったりする。

日没後のハノイは寒くて、燈火もサイゴンよりは暗く、女たちの衣服の黒っぽさにも、戦争の現実にも似合わしい。おれはガンベッタ街を歩いて、パックス・バアへ行った  おれは、フランス人の高級将校や、その細君連や情婦たちの行くメトロポオルでは酒を飲みたくなかった。酒場へ着くと、ホア・ビンの方角で遠い砲撃の音がするのに気がついた。昼間はその音は街の騒音に呑みこまれているが、いまは客を呼んでいる輪タク車夫の鳴らす自転車ベルの音のほかは、森閑と静かになっているのだ。(田中西二郎訳)


ファウラアはシニカルな眼で戦時下の街を見ている。戦争を見ている。当然ながら酒におぼれている。ベトナム人の女性を愛することで何とか生き続けている。
一方、パイルは、若きアメリカ人である。密かに諜報活動を進めている。ファウラーの愛人に横恋慕している。幼稚で有害な理想主義を振り回している。いわばベトナムに介入を進めるアメリカ人の象徴として描かれている。
当然ながら、ファウラーとパイルを、ヨーロッパ人とアメリカ人を対比し対照するだけでは小説にならない。パイルだけではなく、ファウラーの側もまた限りなく不毛な悲劇を演じているというのがグリーンの視線なのである。と思ってみたりする。



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