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549. バーバラ・ピム、みごとな結末   (Today's Soup)

BarbaraPym_QuartetInAutumn.jpg


「秋の四重奏」(1977)は、バーバラ・ピムの第七長編。作品の舞台はロンドン、全員ひとり暮らしの男女が四人。共に、同じ会社に勤め、定年間近の年齢である。四人それぞれの平凡な日常を淡々と描く。あまり起伏のない物語である、なのに深くこころにしみる。

心にしみるのは、ここで描かれている人と人の関係ってやつだ。小説の中の四人の関係、あるいは、四人それぞれと、まわりの人との関係、幾つ年齢を重ねても定まらない宙ぶらりんなままのこころってやつが、人と人との関係を動かしたり壊したりする。それが、ちょっと気になったり、こころにしみたりするのである。

三人がマーシャの家で、彼女の持ち物を整理しながら過ごした午後はおもしろかった。レティがいちばん驚いたのはマーシャの衣類で、三十年代やもっと前の、中にはあきらかに彼女の母親のものだと分かる、そして今また同じ流行が復活してきたドレスが、ワードローブや引き出しにつめこまれていたのだった。(中略)
彼らは二階から作業にかかったのだが、一階のキッチンへ降りてきて食料品庫を開け、ずらりと並んでいる缶詰と対面したときには、さらに驚いた。
「何のために、こんなに缶詰を買い込んだんだろう」と、エドウィンは声を上げた。(中略)
「ほんとにきれいに並べて、整理してあるわ」というレティの声には、賛嘆の響きがあった。「肉と魚と果物。こっちはスープ、マカロニ、チーズ、ラヴィオリ・・・・・・」(中略)
マーシャの食糧庫をこんな風に勝手に荒らすのにはひどい罪悪感があったので、三人は躊躇はしていたけれども、それぞれに自分の欲しい缶詰を選びはじめた。その選び方には、それぞれの異なる個性が微妙に反映していた。エドウィンはスパムとビーフシチューを取り、レティは車海老とハーフカットの桃、ノーマンはサーディンにスープにバタービンズとマカロニ・チーズを取ったのだ。
(小野寺健訳)


引用したのは物語の末尾、四人の内のひとりで先に退職していたマーサが亡くなったので、三人が彼女の家や持ち物を整理しに訪れた場面である。 誰にでもある経験、どこにでもある光景、ありふれた会話、そんなものが重ねられながらみごとに物語が閉じられていく。小説技術というものがあるとすれば、まさにこういうものを指すのだろう。小説に技術などあるものかと考えるとしたら、たぶんこれは作家を作家たらしめている何かなのだろう。そんなふうに思うのである。



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