スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

550. 仮定では、濃厚なポタアジュに、もう一度その濃厚なポタアジュのお代りをする  (Today's Soup)

饗宴


吉田健一は、”飲酒について書く名手であった。酒を飲むことのよろこびをあれほど繰り返し描きつづけた作家も珍しい”。(日本幻想文学集成、吉田健一集・解説、富士川義之)
付け加えれば、酒を飲むだけではなく、健啖家でもあった。彼の作品集を読みかえしていたのは、そんな作家が、”スープ”についてどんな文章を遺しているかが気になったからである。


水もなるたけ飲まないやうに、などといふ病気にはなりたくないものである。なつたら、腹が減つてたまらなくて、喉が渇き、煙草が欲しくても飲めず、映画の試写会の招待券が来ても出掛けて行けなくて、どうにも情けない感じがするだらうと思ふ。(中略)胃潰瘍といふ病気もやはりさうだといふ話を聞いた。先日、それに友人の一人がなつて、間もなく病院から出て来たが、病気中の苦労の話を聞いてゐると実際気の毒で、自分がそんなことになつたらどうすればいいかと、思はず各種の対策に就いて空想して見たのが、どこもどうもないのにさういふことを考へるのだから、却って無責任で楽しい夢の数々に耽ることになり、以下、そのことを少し書くことにする。(中略)

一日の食糧が牛乳五勺に麦湯一杯などといふのが十日も続いて、ゐても立つても、じつと寝てさへもゐられなくなつたら、日頃は当り前のことに思つて行つたり、行かなかつたりしてゐる飲み食ひの場所を、次々に半日かそこらで一廻りする所を想像して見ることにする。(中略)
小川軒でゆつくりとした食事をすることから大分遠ざかつたが、その食事ではやはりオォドブルなどといふものは省くことにする。仮定では、午前十一時頃に日本橋に行つて、これから昼飯になるのであり、空腹はまだ相当のものである筈だから、幾らゆつくりでも、茹で卵の半分をくり抜いた中にカヴィアを入れたりしたのを突つついてゐては間に合はない。濃厚なポタアジュに、もう一度その濃厚なポタアジュのお代りをする。ポタアジュの理想は、一匙口に入れる毎に、何かかう太陽が喉から食道を伝つて胃に流れ込むやうでなければならない。小川軒のはそれ程でもないが、決してまづくはなくて、お代りするのは、初めから二人前作らせて置いて、二杯目のを終わつた時に次の料理が出来上つて、待たずにすむのが狙ひである。
(「饗宴」,1954-55)


繰り返し書くが、これは”仮定”の食事の話である。もしも、飲み食いが自由にならないような病人になったらこんな食事をしてたみたいという空想のはなしをしているのである。スープから始まって、フランス風の洋食をフルコースでたいらげるのである。たいらげたその後は、近くの料理屋に移り茶漬けを食べる。それを三杯くらい食べたら、次はモロゾフへ行き菓子を食べコーヒーを飲む。その次は・・・、とこんな調子で文章は続いていく。仮定の食事の場面が、ざっと十ページくらいは続く。そして、最後は、『空想もここまで来たら、どんなに腹が減った快癒期の病人でも、すやすやと眠りに就くことが出来るのではないだらうか。』と結ぶのである。




にほんブログ村 本ブログ おすすめ本へ

ブログ村ランキング参加中、
クリックしていただけると幸いです



関連記事
スポンサーサイト

⇒comment

Secret

被災地の学生を応援しよう!
プロフィール

jacksbeans

Author:jacksbeans
ようこそ!
記事のカテゴリ区分は、
①自転車、②図書室、③青、④メキシコ、⑤フルーツ、⑥階段、⑦画家、⑧スープ、⑨音楽、⑩綠、です



にほんブログ村 本ブログへ

ブログ村ランキング参加中、
クリックしていただけると幸いです。

カテゴリ
月別アーカイブ
04  12  09  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04 
検索フォーム
最新記事
PVアクセスランキング/海外文学
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。