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583. 巨匠とマルガリータとスープと (Today's Soup)


ブルガーコフの 「巨匠とマルガリータ」 (草稿1928-36、出版1967)、
・・・モスクワの街を跋扈する悪魔のヴォランドと珍妙な手下たち、彼らに操られるモスクワ作家協会の会員たち、同じく翻弄される巨匠とマルガリータ、作中作の物語に現れるキリストとローマ総督ポンティウス・ピラトゥス、‥とこんなふうに登場人物を書き連ねていくだけでこころが踊る。傑作小説というのはそういうものではないだろうか。

しかしこの小説を読み進めるためには慎重な姿勢が必要である。
ストーリーの展開が読めないとか、わけのわからぬまに新たな登場人物が増えているとか、そんなことに愚痴をいうつもりはない。しかし、てんで見当もつかない暗喩や皮肉、見当どころか気がつきもしない裏の意味や風刺のことばが、たぶんそこいらじゅうに転がっているのだとしたら、ぼくらはそれをどう読めばいいのだろうか。     例えば、大好きな野外レストランの場面 (第五章) から幾つかの文章を引用してみる。

「今夜はどこで食事をするつもりだね、アムヴローシイ?」
「聞くだけ野暮だよ、もちろん、ここさ、フォーカ!」
(水野忠夫訳)


いったい誰が、いきなり登場した二人の男の名前について、 (伏線も無ければ訳注もないという条件で、) アムヴローシイとは不死を得られる神々の食べもののことであるとか、フォーカとはロシアの寓話 「デミアンの魚スープ」 の主人公の名前を模したものであるとか、そんなことが理解できるというのだろうか! いやまあこれがただのレトリックの問題であるならばそれはそれでいいのだが。


そして真夜中の十二時きっかりに、一号ホールで、なにやら大音響が轟き、金属製の音が響き、その音は跳びはねるようにひろがりはじめた。そしてすぐさま音楽に合わせて、甲高い男の声が 「ハレルヤ!」 と絶叫した。有名なグリボエードフのジャズ・バンドが演奏を開始したのだ。汗びっしょりの顔が急に輝きだし、天井に描かれた馬どもも活気づき、ランプの光もひときわ明るさをましたみたいに思われ、そして突然、つながれていた鎖が解き放たれたかのように二つのホールにいた人々が踊りはじめ、それにつづいて、テラスにいた人々も踊りはじめた。
(中略)
ウェイターたちは汗びっしょりになって、踊っている客たちの頭上高く、滴のたれるビールのジョッキをかかげて運び、しわがれた声で、「失礼します、お客 さま!」 と突っけんどんに叫んでいた。どこかで、両手を口もとに当ててメガフォンを作って、客が注文していた、「北極海スープをひとつ! ビーフを二つ、 王様風チキンをひとつ!」 と。 いまはもう、甲高い声は歌っているというのではなくて、「ハレルヤ!」 と吠えているみたいだった。ジャズ・バンドの金色に輝 くシンバルを打ち鳴らす音が、ときどき調理場の洗い場へと通ずる傾斜面に皿洗い女たちが乱暴に投げ入れる汚れた食器のぶつかる音でかき消されることもあった。要するに地獄である」
(水野忠夫訳)


場面は、いきなりの狂騒状態である。地獄の次には幻想がその出番を待っている。
こうなれば、登場人物の名前の謂れなどたいしたことではないということになり、わたしも背中の荷物をひとつ降ろしたようにほっとする。 もちろん、ここでは言葉もレトリックもまったく問題にならない。ただただ文体とストーリーの持つ力に引きずられながら物語を最後まで読み通すだけだ。 幸いなことがひとつ。この物語はみごとに完結する。




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