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587. 蟾蜍が出て来た、皆で寄つてたかつて胡椒をふりかけたり、スープを飲ませたりした (Today’s Soup)


水葬物語


当たり前のことなのかもしれないが、短歌には ”スープ” という言葉はあまり登場しない。
それは何故か?などと訊くと妙なことを言うやつだと思われかねないので躊躇していたのだが、何にでも答えはあるものだ。 『岩波現代短歌辞典』 を見ると、飲食(おんじき) はプライベートな側面が強いので古典的和歌の世界ではあまり詠われることがなかったと書いてある。
では、現代短歌ではどうかとさらに訊いてみたいところだが、それはまあ自分で探してみればいいことだと思い直して今に至る。

短歌の魅力とは何か? などという今どき滅多に発せられないような質問にも答えはある、と思う。わたしなら、次のような文章を読み返すだけでユリイカ!と叫びだしかねないのだから簡単なものなのであるが。

 僕たちはかつて、素晴らしく明晰な窓と、爽快な線を有つ、ある殿堂の縮尺圖を設計した。それは屢々書き改められ、附加され、やうやく図の上に、不可視の映像が著著と組みたてられつつあった。その室・室の鏡には、過剰抒情の曇りも汚点もなく、それぞれの階段は正しく三十一で、然も各階は、韻律の陶醉から正しくめざめ、壁間の飾燈は、批評としての風刺、感情なき叡智にきらめき、流れてくる音樂は叙事性の蘇りとロマンへの誘ひとを、美しく語りかける筈であった。

(塚本邦雄 『水葬物語』の跋、1951)



さて、”スープ” についてである。
短歌にはあまり登場しないと書いたが、もちろん零ではない。
たぶん穂村弘にも俵万智にも一首くらいはあるはずだがそれは静置しておくものとして、まず次の歌を見てみることにしたい。

◇水原紫苑
はらからが春のスープにすくひたるかなしみの葉のかたかりしこと (『くわんおん』,1999)
一椀のスープのごとく注がるる神あれな冬、屈(かが)むけものに  (『びあんか』,1989)

◇葛原妙子 
ひとりなる食事をはじむすくひたるスープの中に鹿とゐる人  (『朱霊』,1970)
貝の汁に砂のこりしをこん日の憂鬱とせり雪ふれりけり  (『原牛』,1957)

◇塚本邦雄
はやき死を待たるることのさはやかに三月の芹スープにうかぶ  (『感幻楽』,1969)
百歳さして遙かならねば生姜湯を飲みさして讀むガルシア・マルケス(『詩魂玲瓏』,1998)


まさに、美しく語りかける三十一の階段がここにはあると思う。
塚本のこの二つの歌は魅力的ではあるが、この歌人の凄味あふれる作品群の中では、目立つものがない。“スープ”についていえば、二人の女性歌人の作品の方に、より魅かれるのである。


さて、最後に見てみたいのは、こんな作品である。
前述の歌と比べると、一世紀近く時代をさかのぼることになるが、決して古びていないと思う。
スープという言葉に連ねて、水原紫苑が「かなしみの葉のかたかりしこと」と詠ったこと、葛原妙子が「スープの中に鹿とゐる人」と詠ったことと同じように、至近距離から今に迫ってくるすごみがここにはあると思う。


しろがねの小さき匙もて蟾蜍スープ啜るもさみしきがため

北原白秋の 『桐の花』(1913)、第三章「庭園の食卓」に所収の一首である。
この歌には、まえがきとして、「蟾蜍 (ひきがへる) が出て来た、皆で寄つてたかつて胡椒をふりかけたり、スープを飲ませたりした」という文章が添えられている。




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