10.フラン・オブライエン 第三の警官

「第三の警官」(草稿1939-40、出版1967)、自転車小説の極北、その煌めきはこの50年間途絶えることがない。自転車の小説は多々あるが、長編で、自転車が主題であるか重要な存在を占め、自転車が主題であろうがなかろうが紛うこと無き傑作である、という三条件をすべて満たす小説は極めて少ない。その辺やあの辺りの熱血サイクルスポーツ小説と一緒にしないでねとオブライエンなら言うだろう。

「あんたはこれまでに原子説の秘密を悟るか或いはそれについての噂話を耳にしたことがあるかね?」と彼は尋ねました。(中略) 
「マイケル・ギラーニィは」と巡査部長が言います。「原子説の原理によって多大の影響を蒙っている男の一例なのだ。彼が半ば自転車であるという事実はあんたを仰天させることになるだろうか?」(中略)
「彼の人生のうち少なくとも三十五年間は自転車の上で費やされたことになる---岩だらけのごろごろ道やら上り坂に下り坂を乗りまわし、それに冬のさなかの道なき道では深い溝にとびこんだりして。毎時間ごとに彼はかならず自転車にまたがっているのだが、それはどこやら特定の目的地めざして走り去るところか、あるいはそこからの戻り途かのどちらかなのだ。月曜日ごとに彼の自転車が盗難にあうということがないとすれば、今頃は彼も間違いなく途の半ばを過ぎている頃合いだ」
「どこへ通じる途の半ばなんですか?」
「彼自身が自転車と化する途の半ばだ」と巡査部長がいいました。(大沢正佳 訳)


しかし、この小説は一筋縄ではいかない。小説の結末部で、驚くべき真相が明らかになる。さすがは、1900年代前半のアイルランドに現れたもう一人のジョイス。驚天動地である。不条理である。わたしは動揺を隠し笑い飛ばそうとしたのだが。さらに出版者の覚書として付せられた作家自身の言葉が追い打ちをかける。『形状においてそれは環状。無窮、反復を本質とし、まずはほとんど耐え難い』?!?

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