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79.L・デヴィッドスン チベットの薔薇

「チベットの薔薇」(1962)は、冒険小説の皮を被った壮大な法螺話である。なにせいきなり自転車でヒマラヤの山越えを試みようというのである。そんなことができるなら、わたしだって自転車でカンチェンジュンガへ登ってみたい。

わたしは言った。「ミスター・オリファント、教えてください、このヒューストンとはなにものですか?」
「わたしの、ごく親しい友人です。かつて、同じ学校で教えていました」
「そして、チベットに、それも、自転車で行ったんですか?」(小田川佳子 訳)

小説の舞台は、1950-51年のチベット。ひとりの英国人が、行方不明となった弟を探すために英国からインドを経由してチベットへ向かおうとする。しかも密かに自転車で険しい山岳地帯を抜け国境を越えようというのだが。折りしも現地の怪しい祝祭や中国のチベット侵攻の時期と重なり、否応なく混乱に巻き込まれていく。

ヒューストンは顔を洗い、食事をすると、タバコを吸い、やがてだいぶ気分がよくなってきた。寝袋に入り、ダイヤモンドのように輝く星を見上げると、この上ない幸福感が湧きあがってきた。ヒューストンは暗がりで微笑むと、今日の成果に驚きを感じた。自転車に乗って、ヒマラヤ奥地まで進んだのだ。目を閉じれば、今日進んだ道が隅々まで思い出せた。上り下りした緑の深い谷、川、ゆっくりとペダルを漕いだ丘の連なり。明日はいい日だと、リングリンは言った。こうしたことに慣れていない身にしては、悪い日ではないだろう。(小田川佳子 訳)

途中から、まるで、ル・カレのスパイスリラー小説のような趣が加わってきたりして、物語はどんどん濃密になっていくのであるが、虚実が複雑に入り乱れて、話はそう簡単には終わらない。そう簡単には読み解けない。デヴィッドスンのこの小説は、どこか物語の裏で冷笑する作家の姿が透けて見えるような、そんな手強い作品なのでありました。



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