702. デイモン・ラニアン ブロードウェイの天使


Little Miss Marker (1934)



短編集の表題にもなった「ブロードウェイの天使 (Little Miss Marker)」は、1934年に映画化された。主人公の少女・マーキー役を演じたシャーリー・テンプルばかりが有名になった感があるが、この原作小説の面白さときたら!     短篇小説のたのしさとは、こういうものを指すのだと思う。


作品集の登場人物 (の名前) を挙げれば、それだけで、ラニアンの小説の面白さがわかるかもしれない。
 チーズケーキ・イジー
 洒落者キティ
 キング・オハラとプリンセス・オハラ (もちろん本物の王女ではない)
 ラスト・カード・ルイ
 アンブローズ・ハマー
 レモン・ドロップ・キッド
 マダム・ラ・ギンプ (後に「一日だけの淑女」として映画化)
 気取屋デイヴ
 ザ・スカイ (後に「野郎どもと女たち」として映画化)
 ブランデイ・ボトル・ベイツ
 泣きベソのベソ公 (後に「ブロードウェイの天使=リトル・ミス・マーカー」として映画化)


ちょうどそのときだ、手回しオルガンを持ったイタ公が 『ミンディ』 の前に立ちどまって一曲やりはじめる。その間にやつの女房がタンバリンをたたきながら、歩道に立つ市民たちから金を集めてる。このオルガンの音を聞くとマーキーはハムと酢漬けキャベツを口にほおばったまま、椅子をすべりおりる。それからそのキャベツとハムを飲みこむがね、あんまり急いでるんで危うく窒息しそうになる。そしてこう言うのさ。
「マーキーのダンス」
それからマーキーはテーブルの間をとんだりはねたりしはじめる。その小さな短いスカートを両手でつまみあげてるんで、その下の白いパンティがまる見えだ。すると主人のミンディはそりを見つけてやって来て、おれの店ダンスホールにするつもりか、なんて文句を言いはじめる。だけどそのとき、すけこまし(スリープ・アウト)という仇名の男が言うんだ    こんな楽しい踊りをがたがた言うような人間は頭に砂糖壺をぶつけられることになるぞ、とね。

(「ブロードウェイの天使」、加島祥造訳)



デイモン・ラニアン (1884-1946) の短篇集、『ブロードウェイの天使』 (邦訳:1984、新潮文庫) を読んでいる。ラニアンは、1930年代に、ニューヨーク・ブロードウェイの裏町を舞台にした短編を、約70篇、書いた。全てが、この町に住む悪党について描いたものである。
80年前に書かれたなんて思えない、生き生きとした小説ばかり、古びてないのが逆に不思議なくらいだ。読後感は、痛快。そして、加島祥造訳は最高。日比野克彦の装画も絶品。


小気味が良い悪党小説といえば、現代ならすぐにエルモア・レナードを思い出す。わたしも大好きだ。ラニアンの小説も、(80年のハンデがあっても) 痛快さで全く引けをとらない。
しかし、レナードとは少し面白さが違う。レナードは、超エンタテイメントの小説を書く。そのまま、ハリウッドの娯楽大作として映画化されるような。 (例、ビー・クール、ゲット・ショーティ等)
もちろんレナード自身はクールな目で 「娯楽大作にできるならやってみろ」 とみつめているに違いないのだが。


ラニアンの方は、もう少し、小品だ。
書いたのは、エンタテイメントではなくて、ブンガクでタンペンでショーセツだ。
同じように映画化された作品が多いのは、物語性が強いことが共通しているためだが、レナードのように娯楽大作映画にはまちがってもならないだろう。
原作の持ち味を活かそうとすれば、今ならミニシアターで公開されるような 「小品」 にならざるを得ないと思うのだがどうだろうか。 (実際には、「リトル・ミ ス・マーカー」 は、シャーリー・テンプル主演で映画化された。当時としては大娯楽映画だったのかもしれないが)     ともかく、「ブロードウェイの天使」は、そこからオルガンとタンバリンの音色とマーキーのダンスが飛び出てくるようなとびきりに楽しい作品なのである。





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