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595. ブイヨンを運ぶ食堂車の給仕 (Today’s Soup)


Vladimir Nabokov, in Tyrants Destroyed and Other Stories, 1975.


「偶然」(1924)は、ナボコフが20代で書いたもっとも初期の短篇の一つ。
リガ(ラトビア)の亡命ロシア新聞に掲載されたあと、長いあいだ埋もれていた作品だという。
物語の舞台は、1924年のヨーロッパ、ベルリンからパリへ向かう国際列車である。
そこにまず登場するのは、食堂車の三人の給仕たち (ドイツ人が二人、ロシア人が一人) である。

その男はドイツの急行列車の食堂車で給仕をしていた。名前をアレクセイ・リヴォヴィチ・ルージンという。
ロシアを出たのは五年前、1919年のことだ。それ以来、町から町へ転々としながら、少なからぬ職や仕事についてきた。トルコでは日雇い農夫、ウィーンではブローカー、それからペンキ屋、商店の売り子、等々。いまは長い食堂車の両側を野原や、ヒースのおい茂った丘や、松の木立などがとうとうと流れていた。そして、厚手のカップの中でブイヨンが湯気を立て、時折ぴしゃぴしゃ音を立てていた。彼はそのブイヨンを盆に載せ、両脇に並んだテーブルの合間の狭い通路を運んでいくのだ。その給仕ぶりは、鮮やかな早業だった。牛肉の厚切りを巧みにつまみ上げては、さっさっと皿に取り分けていく。その際、髪を短く切り込んだ頭が、張り詰めた額や、ひっくり返った口ひげにも似た黒く濃い眉といっしょに、すばやく屈められるのだった。
(沼野允義訳)


次に登場するのは、二等の喫煙者用コンパートメントで偶然同室となった五人の乗客たちである。老公爵夫人、同じ亡命ロシア人だがまだ若い婦人、オリーブ色の背広の紳士、そしてドイツ人のカップルの合計五人。

朝、列車が動き始めて、その日の夜、ドイツのどこかの町で食堂車が切り離されるまでの十数時間のあいだの出来事が描かれていく。給仕たちの話、そして乗客たちの話。同じ列車の中のはなしであるにも関わらず、両者は重なることがない。    それがとてつもない悲劇であるにもかかわらず、作家の筆致は軽快で悠然としていて、そして見事に完結している。
初期からナボコフはナボコフであった、そんなふうに感じさせられる一篇でありました。




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