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706. 虫と鳥の音楽家たち、その2


源氏物語絵巻「鈴虫」、
(源氏物語絵巻「鈴虫」、平安時代末期)


源氏物語 第38帖、「鈴虫」の巻、
    秋、八月の十五夜の頃、源氏は六条院の女三宮の部屋の前庭を野の風情に造りかえて秋の虫を放す。二人の冷ややかな歌の応酬の後、この夜は、思いがけずおもしろい宴となった。

 十五夜の月がまだ上がらない夕方に、宮が仏間の縁に近い所で念誦(ねんじゅ)をしておいでになると、外では若い尼たち二、三人が花をお供えする用意をしていて、閼伽(あか)の器具を扱う音と水の音とをたてていた。青春の夢とこれとはあまりに離れ過ぎたことと見えて哀れな時に、院がおいでになった。
「むやみに虫が鳴きますね」
 こう言いながら座敷へおはいりになった院は御自身でも微音に阿弥陀(あみだ)の大誦(だいじゅ)をお唱えになるのがほのぼのと尊く外へ洩(も)れた。院のお言葉のように、多くの虫が鳴きたてているのであったが、その時に新しく鳴き出した鈴虫の声がことにはなやかに聞かれた。
「秋鳴く虫には皆それぞれ別なよさがあっても、その中で松虫が最もすぐれているとお言いになって、中宮(ちゅうぐう)が遠くの野原へまで捜しにおやりになってお放ちになりましたが、それだけの効果はないようですよ。なぜと言えば、持って来ても長くは野にいた調子には鳴いていないのですからね。名は松虫だが命の短い虫なのでしょう。人が聞かない奥山とか、遠い野の松原とかいう所では思うぞんぶんに鳴いていて、人の庭ではよく鳴かない意地悪なところのある虫だとも言えますね。鈴虫はそんなことがなくて愛嬌(あいきょう)のある虫だからかわいく思われますよ」
 などと院はお言いになるのを聞いておいでになった宮が、

大かたの秋をば憂(う)しと知りにしを振り捨てがたき鈴虫の声

 と低い声でお言いになった。非常に艶(えん)で若々しくお品がよい。
「何ですって、あなたに恨ませるようなことはなかったはずだ」
 と院はお言いになり、

心もて草の宿りを厭(いと)へどもなほ鈴虫の声ぞふりせぬ

 ともおささやきになった。

(源氏物語 「鈴虫」、与謝野晶子訳;青空文庫)


やがて月が上がってくる。
源氏が琴を爪弾き、宮は聞き入っている。
先ほどの歌の応酬時とは違って、女三宮は源氏の気配りを喜ばしく思うが素直に口に出せない。
そこへ、蛍兵部卿宮や夕霧たちがやって来て、その夜はそのまま管弦と鈴虫の宴となった。
    先にこの夜のことを "おもしろい宴" と書いたが、もちろん はかない宴 でもあったのである。



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