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708. 音符は六つだけ 


IMG_0924.jpg
(S・R・ディレイニー 「エンパイア・スター」、ジョン・ジュード・パレンカーによる挿絵,1966)


ディレイニーの名作 「エンパイア・スター」(1966)、
引用部に登場するのは、主人公の少年コメット・ジョー、悪魔猫のディク、帝国の王女と思われる少女、そして謎の存在であるルル、    宇宙船の中で出会った少年と少女は、それぞれが奏でるオカリナとギターの音色をとおして意識を通い合わせる。

彼女は降下和音を爪弾き、口を開けて、ゆるやかで、しかも不意に音程のあがるメロディを歌った。それは、ジョーがルルに歌ってやった時以来感じたことのなかった、満足や郷愁や喜びの琴線に触れた。
彼女が歌いやめた。「ルルの作った歌よ、あたしの大好きな曲の一つなの」
「美しい」ジョーが眼をしばたたきながらいった。「続けてくれ、最後まで歌ってくれ」
「これだけなの」と彼女。「ひどく短いのよ。音符は六つだけ。それだけで必要なことはすべて行ない、そして終わるの。ルルの作るものはみんなひどく倹約的なのよ」
「おお」とジョー。そのメロディは虹のように彼の心を和ませ、静説にし、広がって
いった。
「別のを歌いま――」
「いや」とジョー。「今のやつをもう少し考えてみたい」
彼女はほほえみ、手をそっと弦に置いた。
ジョーの手がディクの腹の上をあてもなく動いた。悪魔猫は和やかに鼻を鳴らしている。「教えてくれ」ジョーがいった。「どうしてナクター王子はエンパイア・スターできみを殺したがっているんだい?」
(米村秀雄訳)


「エンパイア・スター」という作品については、ここで書くようなことはあまりない。
これは、百人百様とまではいかないが、幾つもの読み取り方がある小説だと思うからである。同じ”本好き”に向かってそれはそのとおりとか誤読だとか言って何がたのしいだろう。
だから、わたしがここで書いておきたいのは、この引用部のところだけである。
    「音符は六つだけ。それだけで必要なことはすべて行ない、そして終わるの。」    こんな音楽を聴いてみたい気がするということだけである。

エリック・ドルフィ―の有名な言葉、「“When music is over, it’s gone in the air. You can never capture it again.”」が、もちろん大いなる反語であると信じたいものにとっては、たった音符六つの音楽でさえもぼくらを覚醒させたり打ちのめしたりすることがあると、ぼくらのこころの中で静まりながら拡がっていく音楽があると、そう思ってみたいのである。



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No title

エリック・ドルフィーの文字を見て
びくん
ってなりました。
高校生の頃、よく聴いてました。
最初はあのルックスというかおでこに目を惹かれたからなんですが、
今まで聴いた事の無い音楽で、
すごくカッコよかったですね。

当時、BGMがわりに流してた音楽を
今はちゃんと聴くつもりで聴かないといけないんで
体力がないんだろうなって思ったりします。

こんばんは

Sima さん

こんばんは

ドルフィ―の"おでこ"、わかるような気がします。
わたしの場合だと、"モンクの帽子"もそうかな、いやちょっとこれは違うか^^


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