719. すべて上手く行くという歌 (ぼくらの本が歌う時)


ケリー・リンク
(ショーン・タン、「パーフィルの魔法使い」のためのイラスト)


ケリー・リンク(1969-) は、あるインタビューで 『私は気を散らされるのが好きだ』 と、語っているそうだ。
ぼくらは彼女の小説を読むとき、その自由自在に広がっていく物語に、やはり気をいっぱいに散らされてしまう。これって、小説の持つ魅力のひとつなのだろうか?なんだか、作家の不思議な手で蹂躪されてしまっているような気分がしないでもない。   ただ、短編集を一冊読もうとしただけなのに、ぼくらはさんざん蹂躪されたあげく、みんなドリーマーに仕立て上げられるというわけである。You may say I'm a dreamer/But I'm not the only oneというのは、こういうことをいうのだろうか。

「見てみなさい」とトルセットが言って、窓辺に歩いていった。三人で下を見ると、エッサをはじめ魔法使いの召使いたちが難民のあいだを動き回っていた。一言も喋らない老いた女二人は衣類や毛布の束を整理していた。痩せた男は誰かの牛を杭につないでいた。子供たちが鶏の群れを追いかけ、バードが急ごしらえの鶏囲いの扉を押さえていた。年下の女の子の一人パーラが、母親に抱かれた赤ん坊に子守唄を歌ってやっていた。荒っぽくもありきれいでもあるその声が、ハルサとオニオンとトルセットが下を見下ろしている塔の窓までのぼって来た。三人とも知っている歌だった。すべて上手く行くという歌だった。
(ケリー・リンク「パーフィルの魔法使い」,2006、柴田元幸訳)


「パーフィルの魔法使い」は、少年と少女の物語である。
粒ぞろいの作品が並ぶ短篇集 『プリティ・モンスターズ』 のなかでも、とびきりの一作だと思う。
邦訳で50頁ほどの長さであるので30分もあれば読みきることができる。
つまり、そんな、あっというまに、ドリーマーになることができるのである。
ドリーマーになっても、すべて上手く行くとはかぎらないかもしれないのは哀しいが。




にほんブログ村 本ブログへ


関連記事
スポンサーサイト

⇒comment

Secret

被災地の学生を応援しよう!
プロフィール

jacksbeans

Author:jacksbeans
ようこそ!
記事のカテゴリ区分は、
①自転車、②図書室、③青、④メキシコ、⑤フルーツ、⑥階段、⑦画家、⑧スープ、⑨音楽、⑩綠、です



にほんブログ村 本ブログへ

ブログ村ランキング参加中、
クリックしていただけると幸いです。

カテゴリ
月別アーカイブ
04  12  09  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04 
検索フォーム
最新コメント
最新記事
PVアクセスランキング/海外文学
リンク