720. 彼はとってもいいやつだから♪  (ぼくらの本が歌う時)


virginia woolf haunted house 1944
(Virginia Woolf, A Haunted House and Other Stories 1944)


ヴァージニア・ウルフ (1882-1941) の短篇 「遺産」(出版=1944)を読む。
小説の主人公は、中年の男ギルバート・クランドン、有力な政治家らしい。
妻が亡くなり、その遺品を整理している場面から物語は始まる。
ウルフは、この作品の中で"かなしみ"について書いている。男の、ではなく、女のかなしみについて。

    ギルバートは、今、妻の遺した日記を手にしているところ。

「ギルバートは」適当な箇所を開けて文面を読み始めた。「本当に男前だった(後略)」
 自分の問いを察してくれているようなくだりだ。もちろん、あなたは女性にはとても魅力ある人よと言ってくれている感じだ。もちろんミス・ミラーもそう思っていたわけだ。ギルバートは読み進めた。
「妻としてどんなに誇らしいことか」
 ギルバートも夫としていつも実に誇らしかった。二人で外食したときなど、何度ギルバートはテーブル越しに妻を見つめながら心につぶやいたことか。この場で誰よりもきれいな女だと。日記を読み進めた。結婚一年目、ギルバートは下院議員の選挙に立候補していた。二人は選挙区を駆け回った。
「ギルバートが席に着くと、すごい拍手が起きた。聴衆はみな立ち上がって歌いだした。『彼はとってもいいやつだから (訳注、誰かをたたえるときによく口ずさまれる歌)』。わたしは圧倒されるばかりだった」
ギルバートも憶えている。妻は演壇で自分のかたわらに坐っていた。妻が自分にちらりと向けた視線や、その瞳に浮かんだ涙は今でもありありと目に浮かぶ。で、それからどうなったかな。ギルバートはページをめくった。
(井伊順彦訳)


「遺産」は、作家の死後に出版された作品である。
執筆の時期は、1920年代とも、40年頃であるともいわれているらしい。
・・・読後の印象としては、晩年の作家の透き通るように冷たい意識が伝わってくるような感じが強い。
妻のかなしみが、"遺された日記を拾い読みする夫の意識を通じてしか伝えられない"、という世界について、ウルフは書いているのだと思う。



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