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721. 聞く耳を持つ人々に/ブラックウッド 人間和声 (ぼくらの本が歌う時)


Blackwood Human Chord  人間和声


アルジャーノン・ブラックウッド(1869-1951)の長篇、「人間和声」(1910)を読む。
(邦訳、南條竹則訳、光文社古典新訳文庫)
ブラックウッドといえば、怪奇小説であり短篇の作家であると思い込んでいたが、これはそのどちらでもなく、長篇小説であり、たぶん怪奇小説でもない。
では、なにか? ということになるが、それがなかなか難しい。ぴたりとくる言葉がないのである。
例えば、幻想小説、神秘文学と書いておけば無難なのだろうが、少し違う。
音楽が重要なテーマになっているが、もちろん音楽小説ではない。
思い切って、これはブラックウッド流の青春小説であり、成長小説であると言い切ってしまえるといいのだが、それではこの作家のファンに叱られそうな気がするのは何故だろうか?

 少年の頃、彼は想像裡にさまざまなものを生き生きとつくり上げては、自分の創造物を生きた実在だと信じた。彼はすべての人、すべてのものに名前を    本当の名前を見つけた。彼の心のうちのどこかに広大な遊び場が広がっていて、それに較べれば、父親の土地にある干草畑も芝生もちっぽけなものに思われた。(中略)
 彼の想像力はいくつもの世界を思いつき、生み出した。だが、こうした諸世界にあるいかなるものも、真の、生きた名前を見つけるまでは命を帯びないのだった。名前は生命の息吹きだった。そして彼は遅かれ早かれ、かならずそれを見つけた。(中略)
 もちろん、成長するにつれて、こうした考えの多くは消え失せたが、名前の持つ現実感    真の名前の意味、誤った名前の滑稽さ、不正確な発音の残酷さをまったく感じなくなることはなかった。彼は知っていた。いつか遠い未来のある日、素晴らしい娘が自分の人生にあらわれ、自分の真の名前を音楽のように歌って、唇が子音と母音を生み出すにつれて、彼女の全人格がそれを表わし    そして自分は彼女を愛するだろう。自分の名前は滑稽で憎むべきものではあるけれども、彼女の声に応えて歌うだろう。二人は同じ和音の二つの楽音のように、お互いに必要なものとして、文字通り共に諧調を奏でるだろう・・・・・・
(南條竹則訳、光文社古典新訳文庫))


ともかく、この小説が音楽という主題を取り上げてみごとな小説に仕立てていることは間違いない。
コード、スケール、旋律、音節、倍音、等のそれぞれの言葉の持つ意味が、単なる音楽用語であるという概念を越えて、ぼくらの世界に迫って来るのだから、その書きっぷりに感嘆せざるをえない。さらに、声音と名前の関係について、そして和声と世界の関係について延々と書き連ねていくところなど、そこいらの哲学小説など軽うく吹き飛ばし、オカルト小説などすいと置き去りにし、ひとり、世界を走破するかのようである。  
なるほど、けだしこの作家は、"音"までをも見透す、幻視の人なのであった。



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