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727. エリザベス・ボウエン、父がうたった歌 (ぼくらの本が歌う時)


Elizabeth Bowen1952  Elizabeth Bowen j


エリザベス・ボウエン(1899-1973) の短篇 「父がうたった歌」(1944) を読む。
ボウエンは、長篇、短篇ともすばらしい作品を残している。
得意は、”少女”の物語である。少女についての、妙に入り組んだ残酷で美しい物語が得意である。
この短篇にも、ひとりの若い女性が登場してきて、少女だった時代と彼女の父についてのはなしを語っていく。物語の舞台は、1910年代から30年代にかけてのイギリス、第一次大戦が終わった時期である。
短い、20ページほどの作品だが、いろんな意識やイメージや感情が詰め込まれていて密度が高いのに驚く。でも読むのは簡単である。すぐに魅せられてしまって、あとは唸るだけで良い。

「戦争はもちろんもう終わっていて、数年たっていたかしら。父は英国陸軍を除隊して、よく言うでしょ、しばらく休んで様子を見ていたのね。どのくらいそうしていたのかな、正確にはわからないわ。(中略)
そろそろ聞きたいところよね、父がいつうたうのかって。何度か父はうたいかけていたのよ   薔薇の垣根のバーゴラを金槌で叩いているときとか、何かいいことを思いついたときとか、歪んだフランス窓を押したら一気にぱっと開いたときなんかにね。いつもうたい出すところだったのに、歌にならなかったのね   だって、うたっても人に聞こえない場所が、なかったんだから。壁は薄いし、芝生は狭いし、平屋の周囲は空気が重くて静かだったから、あらゆる音がいやでも母の耳に入ってしまうのよ。父の堂々とした歌い出しがが、帽子をあみだにかぶったかっこよさと一緒になって、何にもまして母にはこたえたのね。(中略)そう、それは母にとっても戦争と恋を思い出させたの。だから父がどっちの曲にしろ、最初の四節目か五節目までうたうと、もう母が大きな声で人を気違いにするつもりって怒鳴ったの。父は歌をやめて『ごめん』と言うけれど、気分が乗っていると、つぎの瞬間には、さっさともう一つの曲を歌い出すものだから、母は実力行使でやめさせるわけ」
(太田良子訳)


この物語に登場する ”歌” は、主人公の女性にとって、記憶のなかでうたわれていたものであり、あらためて出てくると困惑してしまうという類のもの、だろうか。
    そんなことに気を取られたり感傷に浸っていると、おっといけない読み落としてしまっていたかもしれない。この短篇は、同時に、若い男女のまだほんの序盤のところの、恋バナでもあったのだったか。



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