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739. ヘッセ 笛の夢 (ぼくらの本が歌う時)


Hermann Hesse flötentraumヘッセ、笛の夢  Hermann Hesse flötentraum笛の夢



ひとりの青年の物語。仕事をしないで年中歌ばかり歌っている息子に、父は小さな象牙の笛を渡し、旅に出ることを進める。そろそろ世の中を見て、見聞を広める年頃だからと。

 そこには水車小屋が立っていた。そのそばに一そうの小舟が水に浮かんでいた。舟の中には男がひとりですわっており、私ひとりを待っていたようだった。(中略)
 「君は詩人とお見受けしたが。ならば、旅立ちに一曲歌ってくれないか?」
 私は気を引き締めた。このいかめしい灰色の男がこわかった。それに、私たちを乗せた舟は非常に早く、音もなく川を下っていた。私は川について歌った。舟を運び、太陽を映し、岸の岩礁にあたってひときわ激しくざわめき、楽しく流浪の旅を終える様子を。
 男の顔はじっと動かなかった。私が歌い終えると、夢を見ている人のように静かにうなずいた。それから、驚いたことに自分で歌いだした。同じように川について、谷間を下る川の旅について歌った。この歌の方が私のよりも美しく力強かったが、すべてがまったく違う響きだった。
男の歌では、川は山をよろめき下る破壊者で、陰気で狂暴だった。水車にせき止められ、橋にまたがれて歯ぎしりし、自分が運ばねばならない舟をことごとく憎み、波や緑色の長い水草で、おぼれた人の白い死体を揺すって微笑むのだった。(中略)
 私はすっかり混乱し、胸苦しくなって黙りこんだ。この年老いた、立派な、賢い歌い手が抑えた声で歌ったことが本当だとすれば、私の歌はみんなただのたわごとで、子供のちゃちな遊びにすぎなかった。
(川端明子訳)


ヘッセの「笛の夢」(1913)は、『メールヒェン』と題して出版された作品群のなかの一篇である。
“昔話”のようなやさしい語り口と展開で綴られる物語は、実際には旅に出た若者に世界の冷たさや厳しさを教えるというような趣きを秘めたものでもある。ただし、それが単純な教訓譚にならないのは、ヘッセの文章が持つ詩情のような美しさに、ぎりぎりのところで救われるからだと思う。
それでも、旅に出たばかりの若者が、” 引き返す道はなかったので、暗い水の上を、夜をついて舟を進めていった” というような文章を突きつけられるとき、本当にそこに救いなど感じられるのだろうか? とわたしなどは思う。いやもう即刻ひきかえしちゃうよね、などと。



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