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1002. 北斎忌 ( bicycles in fiction Ⅱ)


     
  河べりに自轉車の空北齋忌   下村槐太




彼が仮に二百十歳まで生きていたら、あるいは槐太のこの句を絵で見せてくれたのではあるまいか。百号近い画布半分を錆色に塗り潰し、下半分は白のまま、左端に微かに石階が見え河岸を暗示する。中央に荒荒しい筆致で自転車一台、鑑賞者の胸のあたりに立ちはだかり、空は車輪の放射状のスポークの間からしか望めぬ。粗描と見える自転車も近づいてよく観ればギアの鋸状の歯から、チェーンの環の油垢、テールライトの硝子の亀裂まで実物さながらに描かれている。後キャリアからロープが一本垂れてその色がこの大幅中只一色暖色の朱、眺めているうちにそぞろ鳥肌立ってくるような凄まじい絵である。乗るべき人を自転車が拒み、曇天はその自転車と相容れず、画面全体が観る人を締め出して、ある瞬間くるりと向きを変えるような錯覚を覚える。人の心と辛うじて繫るのは一すぢの朱のロープであるが、それも地に届く以前に絶たれた。(中略)
その無念さを百年後に槐太がこのしたたかな俳諧によって晴らしたとは私の独合点だろうか。しかし「河べりに自轉車の空」と一時一音の無駄も含みも叙情もない惜辞に、私は俳諧師槐太の孤高狷介な風貌と魂を見る思いがする。(以下略)
(塚本邦雄「百句燦燦」)



槐太の句は、没後の句集『天涯』(1973年)に所収。
塚本の文章は、勝手ながら旧字、旧仮名遣いを新字、新仮名遣いに変えて引用した。
それにしても、この句のみごとなこと。「塚本による北斎の自転車の絵」を見てみたいというわたしの感慨など、言うまでもないが、この句の前ではまったくちっぽけなものにすぎないのである。なお、北斎忌は陰暦四月十八日、西暦では五月十日である。


  北齋忌自轉車でゆく橋めぐり  雀來豆




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