760. 堤中納言物語/花を手折る人 (ぼくらの本が歌う時)


堤中納言物語


光文社古典新訳文庫から出た蜂飼耳・訳の『堤中納言物語』、
評判通りの面白さである。
ここには十篇の短篇と一篇の断章が収録されているが、冒頭の「花を手折る人」から、早速唸らされる。

 月の光に、だまされてしまった。
 もう夜が明けたものと思いこんで、慌ただしく女の家を出てきた。きっと女は、もっと一緒にいてくれればいいのに冷たいな、なんて思い悩んでいるんだろう。そう思うと、いまからでも引き返したほうがいい気もする。けれど、いざ戻るには、もうかなり来てしまっている。戻るに戻れない。そのまま、ふらふら、家路を辿る。
(「花を手折る人」、冒頭、蜂飼耳訳)


魅力的な書き出しである。
この後の物語の展開に巧みに誘い込む力を持っている。
蜂飼訳の魅力が、早速、感じられる部分でもある。
この新訳の魅力は・・・、
つまり、これは、口語短歌の魅力のようなものなんだな。などと思ったりする。

 ある家を目にしてはっとする。思い出す。あ、そうだ、ずっと前、この家にいた女とつきあったことがあった。すごい昔のことだけど。にわかに、記憶がよみがえってくる。(中略)
中将は、お供の男たちを少し離れたところへ行かせた。そして透垣のそばの、すすきがいっぱい生い茂っているところに隠れた。そこから邸の様子をうかがう。
すると、こんな声が聞こえてくる。(中略)
年頃の侍女だ。きれいな子だ。すっかり着なれた感じの、宿直のすがたをしている。少し紫がかった赤色の、つやのある衵を着ている。よく梳いた髪が、小袿に映えて、すごくきれいだ。
 その侍女は、明るい月の方へ扇をかざし、顔を隠しながら歩いてくる。「月と花とを・・・・・」という古歌を口ずさみつつ、桜の方へ近づいてくる。
(「花を手折る人」、蜂飼耳訳)


月の夜、扇をかざし顔を隠し、古歌を口ずさみながら歩いてくる少女、
なんとも美しい情景であると思う。
千年近く前に成立したこの物語が、眼前に蘇って来る、そんな動きを感じたのである。


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