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○アンソニー・ドーア、シェル・コレクター


シェル・コレクター


アンソニー・ドーア(1973-)の短篇集「シェル・コレクター」を読んだ。(03年、新潮社、岩本正恵・訳)
原書は2001年出版、これがデビュー作であった。
ドーアは、2015年、ピューリッツァー賞を受賞した。

読みだしてみると、いたってシンプルな小説である。
しかし、物語の設定、登場人物、ストーリーの展開、そして結末、読み終わってみると、どれも、少しずつ歪で奇妙で、やはり現代小説なんだよなあと感じさせる部分があふれている。
文章も文体もシンプルで美しく、きちんとストーリーも展開される。
しかし、ベースになる想像力が、どこかいびつで、物語の展開する方向も不思議だ。
結局、読み手を途惑わせたり、ところどころで幻想ブンガクの領域に踏みいらせてしまうような、そんな小説をドーアは書いた。
ただし、訳者があとがきで書いているような超常的な世界だとか、異界だとか、自然への畏怖だとかを描いたのではないと、わたしは思う。これは、あくまで普通の人間の心と想像力について(つまりあらかじめ歪なものである心と想像力について)書かれた物語であるし、いかに普通の心と想像力が奇妙で不思議な世界につながっていくのかについて描いた小説だと思うのである。


短篇集には、次の8篇が収録されている。
オースターやミルハウザーやダイベックのように、読み手を現実から幻想の世界に放り込んでくれるような小説がわたしは好きなのだが、ドーアの小説は少し違っていて、現実と幻想世界の狭間を描きながら、実は真正面から生きることについて書いた小説だという気がする。ともかく、どれも堪能させてくれる話でありました。

①「貝を集める人」
= 孤島で暮らす盲目の老貝類学者の話。隠遁生活を描くのではなく、世界や、他者や、少女との出会いについて描く。混乱するが、美しい安息もある。

②「ハンターの妻」
=モンタナの山奥に住む狩猟ガイドの男の話。奇術師の助手をしていた少女を見初め結婚する。彼女は、手をかざすと「死んでいく生きものの魂を読みとることができる」。
まるで超常的な感覚について書かれた小説のようだが、そうではないと思う。
人間のこころはあらかじめどれも歪で、必然的に離れたり繋がったりせざるをえないという事実について書いた物語だと思うのだ。
それだけに美しくて哀しい。

③「たくさんのチャンス」
=海辺の町に引っ越してきた少女の、ひと夏の経験について書いた話。
立派な成長小説。すがすがしく、少し抒情的でもある。

④「長いあいだ、これはグリセルダの物語だった」
= アイダホ州の田舎町に住む姉妹の話。姉が見世物小屋の金喰い男と駆け落ちしたために残された妹にの人生について書かれた物語。淡々としていて、しかも峻烈。

⑤「七月四日」
=バカなアメリカ人の釣師たちが、バカなイギリス人の釣師たちと、魚釣り勝負をする話。
短い寓話。

⑥「世話係」
=リベリア内戦で家族を失った男が難民として流れ着いたアメリカで、さらなる苦しみを味わうという話。ただし単なる冷酷な話が展開されるのではなく、なにやら安息の地に戻れるのではないかと夢想させる辺がドーア風なのか。さらに、①、②の話と同様に、男が少女と出会うことで、救済されるという構造もある。まあそれならオイラだって無垢な少女に出会いたいなどというタワゴトは言わないほうがいい。

⑦「もつれた糸」
=中年男が釣りをしている。ふとしたことから不倫相手の存在がばれそうになる。そんな心配をしながら、なおも釣りをしている。そんな情景を描いた話。
釣りと川についての描写が何か心理的なメタファーになっているとかどうのとかという読み方はせずに、その静謐で緻密な文章を読む方がいいのだろう、不倫の心配というベタな話があざやかな短篇になるというお手本?のような小説。

⑧「ムコンド」
=化石発掘に来た博物館員が、不思議な活力にあふれたアフリカの女性を見初め、結婚してアメリカに戻る。アメリカの生活になじめない彼女の心と、仕事と時間にとりつかれたように働く男の心が、当然のように離れて、壊れていくようすを描いた話。もちろん、いかに、救済されていくのかについて書かれた話でもある。物語の構造は、②と同じ。
脆くて、哀しくて、ただし結末は美しい。


PS. 「シェル・コレクター」は、日米合作の形で映画化される。2016年、公開予定。




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