87.イアン・マキューアン 時間のなかの子供

「贖罪」(2001)があんなふうに大ヒット作になってしまうと、それでもう次を読む気が失せてしまったかもしれない。しかしマキューアンは、やっぱり次も、他の作品も読みたくなる作家なのである。
ブッカー賞を獲った「アムステルダム」(1998)に見られるような、あのとてもとても辛辣な視点が、知らず知らずのうちにこころを揺さぶるのかなと思ったりする。…「時間のなかの子供」(1987)は、マキューアンの最初の長編である。近作とは少し違ったマキューアンが見られる。

線路の向こうは急坂の丘だった。最後に雪が降ってから車は通っておらず、生垣に挟まれて前方に伸びる道は、何の乱れもない白い帯であった。月はスティーヴンの行く手にあって、ようやく沈み始めていた。この道には幽霊がいた。スティーヴンは道の端を静かに歩いた。わきで若いカップルが、吹きつける風と雨に向かって自転車を押していること、そしてその二人が押し黙ったまま、ちぐはぐな思いに耽っていることを感じながら。若い二人は今どこにいるのだろう?四十三年という歳月以外の何が、二人と俺とを隔てているのだろう?
(真野泰訳)


この作品にはいろんな物語が詰まっている。夫婦の物語、親と子、大人と子供の関係、そして時間をめぐる物語、それらが重なりあったり逆さまになったり剥がれたり裏返ったりしながら物語は進行する。そんな構成に目を眩まされていると、喪失感に打ちひしがれているばかりのように見えた主人公が、いつのまにか生気を取り戻してくるんだものなぁ。やはりマキューアンには驚かされる。やっぱり次も、他の作品も読みたくなる。



関連記事
スポンサーサイト

⇒comment

Secret

被災地の学生を応援しよう!
プロフィール

jacksbeans

Author:jacksbeans
ようこそ!
記事のカテゴリ区分は、
①自転車、②図書室、③青、④メキシコ、⑤フルーツ、⑥階段、⑦画家、⑧スープ、⑨音楽、⑩綠、です



にほんブログ村 本ブログへ

ブログ村ランキング参加中、
クリックしていただけると幸いです。

カテゴリ
月別アーカイブ
04  12  09  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04 
検索フォーム
最新コメント
最新記事
PVアクセスランキング/海外文学
リンク