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89.トオマス・マン 墓地へゆく道

「墓地へゆく道」(1898)は、初期短編の代表作のひとつ。岩波文庫の『トオマス・マン短編集』に収録の17篇は、20代前半に書かれた作品が多いのであるが、どれも趣が豊かである。人間の描写が深い。滑稽であると同時に悲惨な主人公が続々と登場する。この作品でも、ピイプザアムという名前の男が、今、墓地へゆく道を歩いている。同じ道を後ろから自転車に乗った若い男が走って来て、物語が始まる。

サッドルにまたがっているのは、若い男である。少年である。気楽そうな遊覧者である。いや、彼は決して、この世の偉大な華々しい人たちの中に数えられたいというような望みなんぞ、なにも抱いているわけではない。彼の乗っている車は普通の品で、どこの工場でできたものやら、値は二百マルクで、まったくいい加減に買ったものである、そうして今彼は、その車でいささか郊外を乗り廻している。たった今町から出てきて、ぴかぴか光るペダルを踏んで、広々した自然の中へ、景気よく乗り込んでゆくところなのである。はでな色をしたシャツの上へ、灰色のジャケツを重ねて、軽いゲエトルと、それから世にも思い切った鳥打帽とを着けている。茶がかった格子縞で、てっぺんにぽっちのついた、すこぶる奇抜なやつである。しかもその帽子の下からは、ふさふさした明色の髪の毛が、どっさりはみ出して、額の上に逆立っている。眼は黒味がかった青である。若者は生命そのもののごとく飛ばして来た。そうしてベルを鳴らした。ところがピイプザアムは、髪の毛一筋ほどでも道を開けようとしない。そこに突っ立ったなり、頑固な顔つきをして生命を睨みつけている。(実吉捷郎訳)

驚いたのは、自転車で現れた若い男を、作者が「生命」と呼んでいることである。もちろん、単純に、「彼が生命そのもののごとく溌剌と登場してきた」からと思っておけばいいのかもしれないが。読み進めていくと、この「生命」という言葉の他にも、作者の意図や思惑や仕掛けが込められた暗喩のようなものが、其処此処に幾つも幾つも散りばめられていて、読者の想像力を問うているような気がしてくるのである。



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