12.吉田健一 東京の昔

「東京の昔」(1974)、1920~30年代にかけての話か。当時の街の様子を70年代の時点から振り返る。著者によれば、そのころの東京はどうにでもこうにでも暮らしは立って生活が楽だった時代。戦争の気配もまだ薄かった。そんな時代の東京の町(本郷信楽町)にも自転車屋があった。主人公の「わたし」は、自転車屋の若主人の勘さんや帝大生の古木君と知り合いになって、本郷のおでん屋や神楽坂のBARや待合や銀座のカフェを飲み歩く。

例へばその頃は横濱までコーヒーの粉を仕入れにいつてこれを東京の懇意な喫茶店に卸して廻つても一日三、四圓、どうかすると五、六圓にもなつた。それが盛り蕎麦が七銭の時代にである。叉例へば中古の自轉車を新品に仕立てることが兎に角その頃は出来もすれば商賣にもなつてどこかで中古を一臺手に入れて多少その方のことに就て心得があり、友達が自轉車屋をやつてゐるのにそこの道具を借りれば餘り手間を掛けずに當時の製品で言へば何年か前のギヤMが今年のギヤMに早變りして自轉車を欲しがってるものに恩を着せて賣り付ければ中古に拂つた値段の倍にはなつた。



ここで繰り広げられる会話と「わたし」の独白が、この小説のキモであり魅力になるわけであるが、これは何と言えばいいのだろう。社会論でも時代論でも人間論でもなくて、吉田健一ふうの文明論のようなものといえばいいのだろうか。ともかく、読みだすとすぐに独特の文章に魅せられて、いつのまにか毒気を抜かれたような気持ちになって、読み終わる頃にはこの小説の魅力にやられてもうすっかり酩酊気分である。
吉田健一の作品なら、小説では「金沢」、小説以外なら「ヨオロッパの世紀末」の二冊が飛び抜けていて、これだけ読めば充分とすっかりわかった気分になっていたわけであるが、もちろんそれは間違いであって、この晩年の小説の見事さったらないのでありました。

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No title

とても良い読みと思います。

Re: No title

yamayamaさん、コメント、ありがとうございました。
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