165. スタニスワフ・レム 完全な真空

『完全な真空』(1970)は、架空の本に対する架空の書評を集めて一冊の作品集に仕立てたものである。訳者によれば、この本は、ラブレーからボルヘスに至る<架空の書物>の先駆者たちと同じ動機を備えているという。すなわち、①風刺と哄笑の精神、②珍しい書物へのコレクター的欲望、③自分で書くことのできない書物への愛惜の念、の三つである。

下記の引用は、この作品集の『「イサカのオデュッセウス」という探検物語に対する書評』から採った。・・・アメリカの田舎町イサカに生まれたホーマー・オデュッセウスは、今、人類の進歩の為に、世界の辺境から<最高級の天才たち>を探し出し、組織する運動を主宰している。

探索の手は、世界中のあらゆる図書館に及ばねばならない。図書館の中でも稀覯本や珍しい手稿を集めた部局、そしてとりわけ、ありとあらゆる紙くずが底に押し込まれた地下室などは、見逃せなかった。しかしながら、そういった場所で成功をあまり期待し過ぎてもいけない。オデュッセウスが自分の書斎にかけた地図の上で、赤い丸印がついていたのは、まず第一に精神病院である。同様に、古ぼけた癲狂院の汚水溜めや下水道の発掘出土品などにも、オデュッセウスは大きな期待を寄せていた。(中略)なぜならば、まさにこういった所にこそ、人類が軽蔑し、存在の境界の向こうに掃き棄てたものすべてが見つかるからである。
(沼野充義、工藤幸雄、長谷見一雄訳)


しかししかしレムのことであるから、先人たちの模倣だけでは終わらない。彼自身が別の作品でこんなふうに語っているのだという。  『ボルヘスが我々に説明してくれた天国や地獄は、人間には永遠に閉ざされたままのものだ。我々が作りつつあるのは、より新しく、より豊かな、より恐ろしい天国と地獄なのである』  レムは、それこそがSF作家の使命だと言っているのだろうか?!

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