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182. ユイスマンス さかしま

「さかしま」(1884)の主人公のデ・ゼッサントは、パリを遁れ郊外に隠棲の居を構える。俗人や喧騒のみだりに侵入しない土地で、心の安らぎに浸ろうと目論んだのである。そして、買い取った家に徹底的に手を入れ、そこに人工の理想郷を作り上げようとする。

とどのつまり、彼は、居室の壁を書物のように、膚理のあらいモロッコ革や、鋼鉄板の強い圧搾による光沢出しをほどこされた喜望峰の山羊皮などをもって、装幀させることに意を決した。
こうして鏡板が張られると、彼は竿縁や上方の腰板に、ちょうど四輪馬車の製造人が馬車の羽目板に用いるような、濃い藍色や艶のある藍色の塗料を塗らせた。やや丸味をおび、同じようにモロッコ革を張りつめられた天井には、あたかもそのオレンジ色の皮膚に嵌めこまれた一箇の巨大な円窓のように、濃い青色の絹張りの丸い天空が切りひらかれていた。そして、その円い天空の真んなかに、昔、ケルンの織工たちが聖職者の祭服に縫い取った銀糸の熾天使が、幾つとなく羽ばたきながら舞いのぼっているのであった。
(澁澤龍彦訳)


・・・かくして、青とオレンジ色を基調としたみごとな書斎ができあがる。当然ながらこの書斎は、ドン・キホーテが作り上げた騎士物語の殿堂とも、ネモ船長が有する壮大で実際的な図書室ともかけ離れた、神秘的象徴主義の所産である。書斎に並ぶのは、彼が愛する頽唐期のラテン文学であり、ボオドレエルでありマラルメであり、ギュスターヴ・モロオなどの幻想絵画であり、珍奇な宝石や香料や花々である。この書斎のなかで、デ・ゼッサントは、ひたすら感覚と趣味とを洗練させて人工的な夢幻の境に逃避しようとする。


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