185. S・アンダソン ワインズバーグ・オハイオ

『ワインズバーグ・オハイオ』(1919)は、架空の町<ワインズバーグ>で暮らす人々の姿を描いた連作短篇集。アメリカ現代文学の出発点のひとつ、というような位置付けもできるらしい。

牧師はベッドの女についての想念を、断乎として払いのけ、細君にたいしてはまるで恋人のように振舞いはじめた。ある晩、いっしょに馬車で出かけたとき、彼はわざわざバックアイ・ストリートからそれて、水道池の上手のゴスペル丘の暗がりに馬車を乗り入れ、セアラ・ハートマンの腰に手をまわした。また、朝食をすませて住居の奥にある書斎にひっこむ前には、テーブルのわきをまわって、細君の頬にキスをしに行った。そしてケイト・スウィフトのことが頭に浮かぶと、微笑をうかべて眼を天に向けた。「主よ、私に力をおかしください」彼はつぶやくようにいった。「私が狭い道からはずれずにひたすらあなたのお仕事を果すようにさせてください」
こうして今や本物のたたかいが、茶色の顎鬚をたくわえた牧師の魂のなかではじまった。
(小島信夫、浜本武雄訳)


読後、ふと気がつくのは、『連作短篇集』という形がこころにくいほど生きているということである。
このスタイルでこそ、ワインズバーグというアメリカ中西部の田舎町を描き、この町に住むさまざまな人々を描き、さらにその中で20世紀初という時代と、新聞記者の青年ウィラードの揺れ動く姿を浮き彫りにしていくというような小説の業が可能になったのだと思う。連作短篇集という構成こそが、この物語の豊饒さと味わいの深さをもたらしたと思うのである。


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