202. マルグリット・ユルスナール 青の物語

「青の物語」(1930年頃)は、わずか10ページほどの掌篇ながら、まさに青づくしといった趣向で酔わせてくれる。<kind of blue>の世界を彷徨うには必携の書なのである。
では、どんな小説か、乱暴なことをいえば「青に取りつかれた男、あるいは女の見た夢」のようなものである。小説というよりもっと凝縮された散文で、詩に近いような作品。冒頭から繰り出される青のイメージにいきなり圧倒されてしまうと、あとは10ページなどあっというまなのである。

ヨーロッパから来た商人たちは、甲板にすわっていた。青い海を前に見ながら、灰色の布をたっぷり当てて繕った帆の投げかける藍色の影の中にいた。日の光は幾本もの綱の間で絶えず動いていた。そして船が横に揺れると、その光はまるでボールのように、目のとても粗い網の外へ飛び出してゆくのだった。暗礁を避けるために船は絶えず船首の向きを変えていた。そして注意深い水先案内人はその青い顎を撫でていた。
(吉田可南子訳)


青い海、水先案内人の青い顎、敷石に走る青味がかった筋、褪せた青い色の絨毯、セイレーンの尾のように青い空、ケンタウロスの青くて毛足の短い尻のふくらみ、半球型の青金石だろうと思ってつかんだ亀、・・・。溢れんばかりの青のイメージに圧倒されてしまう。しかし、言葉だけで物語が無いということではないので心配は無用。見事に物語は語られ、そして閉じるのである。

もちろん短すぎて、もう少し書き連ねてくれたならと思ったりはする。訳者解説にあるように、ほんとうは「赤の物語」や「白の物語」を書き足してひとつの短編集を編みたいというような意向が作家にはあったらしいということを知ると、ついに書かれなかった物語をたまらなく読んでみたくなる。でもしかし、これでよかったとも思う。世界にはほんの短い時間にしか見えない青い玉のようなものがあるのだと思ったりするのである。

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