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29.チェーホフ 箱に入った男

自転車の歴史は意外に短い。小説の歴史と比べるととても短い。今のようなかたちの自転車が登場するのは、わずか150年余り前、19世紀後半になってからである。チェーホフの時代には、ぎりぎり自転車が間に合った。そんな時代である。だから、ひとりの女性が自転車に乗ったというだけでひとつの短編ができた。「箱に入った男」(1898)は、岩波文庫の『ともしび・谷間、他七編』というアンソロジーに収録されている。

そうして歩いて行くと、どうでしょう、いきなりコワレンコが自転車を飛ばしてやって来た。つづいてワーレニカが、やっぱり自転車で、赤い顔をして疲れたようすだったが、それでも楽しげに、浮き浮きしながらやって来た。
「お先に!」と彼女が叫んだ。「なんてすばらしいお天気でしょうね、すばらしいわ、ほんとに!」
そして二人とも行ってしまった。わがベーリコフは、青い顔をいっそう青くして、茫然としていた。立ちすくんだままわたしを見て……、
「あれはいったいなんだろう」と彼は言った。「それとも錯覚だろうか。中学校教師や女性が、自転車を乗りまわしたりしていいものだろうか」
「どうしていけないんです」とわたしは言った。「乗らせておけばいいでしょう」
「どうしていいんです」と彼は、わたしが平気なのに茫然として叫んだ。「何をおっしゃる?!」
(松下裕 訳)


この短編では、女性が自転車に乗ることが重要なエピソードになっている。なっているけれども、フェミニズム的な視点が重視されているわけではない。また当時の旧ロシアの社会の保守的な雰囲気をことさらに強調しているわけではない。
チェーホフが描こうとしているのは、あくまで主人公である「わがベーリコフ」=「箱に入った男」の人となりと彼の生きざまについてである。短い話のなかで、みごとにこの男の生きた人生をくっきりと浮かび上がらせている。「箱」とはなにかについても。

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