30.ダイ・シージエ フロイトの弟子と旅する長椅子

「フロイトの弟子と旅する長椅子」 (2003)、ダイ・シージエの長編第二作、主題は前作(バルザックと小さな中国のお針子)と同じである。西洋文明と中国人の出会いと衝突と蹉跌のさまを描く。基調は喜劇である。ただし、作家の視線は冷たい。ペーパーバック小説のようなプロットが、滋味あふれるチャイニーズ キュイジーヌのように仕上がっている。旨し。

穏やかな夏の夜が明けると、莫は浅く短い眠りから目覚めた。(カフカの『変身』を読んでからというもの、朝起きるのは彼にとってつねながらの恐怖だった)。しかし、その日はおかしなことに気分がすっきりし、力が漲ってくるのを感じた。起きあがり、窓に近づいて外を眺める。星がたったひとつ、確か北極星という名の星がまだ北の空でまたたいていた。公害のひどいこの街で星を見たのは帰国して以来はじめてだった。星をしばし眺め、それを、精神分析の旅の計画にとって吉兆のしるしだと解釈する。そして星が消える前に、父親の、ギーギー音がする古い自転車に乗って出かけていった。その時間、通りは青白い灰色をし、色を失ってしまったかのようだった。街のはずれまでペダルを漕ぎ、高層ビルの前で止まる。巨大な鏡のような窓ガラスは、揚子江に昇る太陽の反射光でおめかししている。莫は旗をとりだし、自転車の荷台にしっかり結わえつけておいた釣竿の先に掲げた。それから自転車に乗ると、ペダルを踏み込み、風に旗をなびかせて矢のように出発した。目指すは南の郊外だ。(新島進訳)


…こんなふうにして彼は広大な中国の大地へと果てしない精神分析セッションの遠征に出かける。
自転車に乗って。・・中国人とフロイト、精神分析と自転車、北極星と高層ビルと揚子江・・・もうこの対比だけで面白いのに、自転車の荷台に結わえた釣り竿の先に精神分析医の旗をゆらめかせたりするんだものなぁ。駄目押しでシージエの勝ち。
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