327. アンブローズ・ビアス 月明かりの道
ビアス(1842-1914?)は、多くの短編を書いた。
作品は、三つに分類される。恐怖の世界、戦争の世界、信じられない話の世界の三つである。「月明かりの道」(1907)は、恐怖の世界に分類される短編のひとつである。今読むと、恐怖というよりも、ここで描かれている荒涼たる精神のようなものに慄くといった方がいいかもしれない。ちなみに、芥川は、この小説に着想を得て、「藪の中」(1921)を書いたという。
私は誰よりも不運な男です。金持で、人から尊敬され、かなりいい教育を受け、健康もまずまずで
ほかにも多く有利な点を持ち、同じ利点の持主からはだいたい大事にされ、持たない者からは羨まれているのですが実はそういうものに恵まれなかったなら、私はこれほど不幸な男にはならないですんだだろうに、とときどきそう思うのです。そうであったら、私の外的生活と内的生活の違いが絶えず気になって苦しまされることはなくてすむだろう。貧乏に追い立てられ、努力を強制されれば、暗い秘密をときどき忘れて、ついつい落ち込む推測の泥沼でもがかないですむだろう。
(第一章、ジョエル・ヘットマン・ジュニアの陳述;大津栄一郎訳)
1913年、ビアスはワシントンを発ち、旅に出た。幾つかの思い出の地をめぐったあと、ニューオリンズから陸路国境を越えて、メキシコに入った。そしてそのまま生死不明になった。
・・・わたしのメキシコの記事の中では、既に、①メキシコの作家、②メキシコ系アメリカ人の作家、③メキシコについて書いた作家、という三分類があったが、ここに、④メキシコに消えた作家、が加わることになった。


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