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330. アルベルト・モラヴィア メキシコ女


モラヴィアの初期短編である「メキシコ女」(1948)は、こんな一節から始まる。十年ほど前に読んだこの冒頭の部分を、おぼろげながら覚えていたのは、たぶんわたしも同じような経験をしたことがあったからか。なぜ、ぴったしの服をえらぶのってむずかしいんだろう。

その日は暑く、雨模様で、家を出たとたんセルジョは自分のミスに気づいた。こういう熱帯まがいの気候だから、あいの服を着てくるべきだったのに、重い冬服を着てしまった。そのうえ、これまた冬用で、ダブルの厚手の外套がくわわっていたため、いわば胸と腹に外套を一枚ではなく二枚かかえていたことになる。そして、ごていねいにシャツの下にウールの肌着を着こみ、足にはウールの靴下をはき、首にはウールのショールを巻いていた。片手に傘を持ち、もう片方の手に手袋をにぎっていた。二、三歩踏み出したとたんに、中世の騎士ではないが、馬よろいを着ているような気がした。これというのも、空にもくもくと湧き上がってきたあの呪わしい黒雲がいけなかったのだと考えた。(中略)
人混みの道を歩いて行くうちに、わずらわしさ、暑さ、重さがいよいよ加わり、それに不機嫌な思いもあわせてつのってきた。(中略)
散歩をするつもりで出てきたのだが、こんな厚着をしていたのでは、いつものように気晴らしをしたり、一息つくなどできない相談だった。それどころか、頭のてっぺんから爪先までげんなりしてしまうこの不快な暑さの中で、怒ったような目はおのずと町でも一番みすぼらしいもの、みにくいものへと向けられて行った。(中略)いつもはあんなに好きな町全体が、いまは汚物の巨大な塊りのようにみえ、その中で、ほかの場所やほかの状態なら当然、新鮮さと完全さをとどめているはずの人や物が、ごちゃまぜに放り出されて、くさって行き、醗酵していた。
(千草堅訳)


もちろんモラヴィアはただ天候描写をしているわけではない。このあといよいよ友人やら友人の彼女やらメキシコ女やらが登場し、なにかありふれているようで同時に奇妙な恋愛騒動が語られていく。さりげなくて、気が利いていて、魅力的な一篇。




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