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332. カルメン・モロネス グレース

もうひとつ、チカーナの作家の作品。先に記事を書いたエリーナ・マリア・ビラモンテスの短編(『蛾』、1985)は、十四歳の少女が一人称で語る物語であったが、カルメン・モロネスの「グレース」(1990年頃)は、十八歳の少女フランシスが主人公で、こちらは三人称で語られていく。どちらも、小さな町や狭いコミュニティの中に囚われている少女のこころについて書いているのだが、作品の印象はずいぶん違う。人称の違いだけでずいぶん味わいが変わってくるものだなあ、と当り前のことに気がつくのである。

その晩、あてがわれた手伝い仕事を終え、みんなが寝付いた頃、フランシスはスケッチ・ブックを小脇にかかえてこっそりと台所へ戻った。電気をつけ、フォーマイカのテーブルに紙と色鉛筆を広げて座る。果物皿に一個だけ取り残されたオレンジを手に取り、おもちゃがわりに弄んでみた。一方の手から他方の手へ、その重みを味わいながら軽く投げたり、小ぶりな両手で丸い形をすっぽりおおったり、堅くてごつい皮を指でなぞるように手の中でまわしたり、鼻先まで持ち上げて甘い柑橘系の香りを嗅いだりもした。耳のそばで振ってみるとゆったりとした鈍重な音が聞こえた。テーブルに置いてその明るい色や、表面に浮かぶ光と影の戯れを観察した。フランシスは自分がジューシーな果肉にかぶりつき、その甘い味が自分の存在を満たすところを想像してみた。彼女はまっさらな紙に黄色い点を一つ描いた。それから何百、何千という点を描いた。それらの点は中心から外側へ向かって螺旋状に弧を描き、一つの宇宙となり、やがてはこの完璧にして唯一無二の小さなオレンジになるだろう。
(栩木玲子訳)



カルメン・モロネス(~2005)は、メキシコ系アメリカ人の作家。カリフォルニア州サンタクルーズの公立図書館に司書として勤めながら、詩や小説を書いた。訳者解説によれば、彼女は、”踏みつけられ、抑圧されたすばらしい者たちの物語を語りたい”、という言葉を残しているそうだ。・・・たしかに、引用したこの小説の最後の部分は、”すばらしい者たちの物語”という言葉にふさわしい閉じ方を見せてくれる。囚われた少女はやがて、外側へ向かって螺旋状に弧を描くように動き出していくだろう。



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