41.リック・バス 見張り

リック・バスは初読。導入部から奇妙な調子で物語が展開されていくのに驚いた。逃げ出した父親を、これも年老いた息子が懸賞金を付けて引き戻そうとする。それにひとりの自転車乗りが協力するというのだが…。「見張り」(1989)は、アンソロジー、『世界の肌触り』に収録の一篇。

バスビーがいないと寂しかった。つらかった。とにかく静かすぎる――特に夕方は。こんな静かさを聞いたのは生まれてはじめてだった。時たま、自転車乗りの連中が、ホリングズワースの、おそろしく古びた納屋兼食料雑貨店の前を通り過ぎていった。たまにそのうちの一人が自転車を止めて、汗を流し息をはあはあ言わせながらコーラを飲んでいった。ひたすらスピードに集中しているその男は、人間というより家畜みたいに見えた。ホリングズワースと世間話をしたりする暇なんかなかった。男は自分の名はジェシーだと言った。こんちは、と言ってコーラをがぶ飲みすると、ジェシーという名のその男は、仲間に追いつこうとそそくさと走り去っていった。(中略)
彼らが動物の群れのように走り去るのをホリングズワースは見守った。暑いさなか、彼らは草ぼうぼうの見捨てられた道路を上り下りして、道路や野原から浮かぶゆらめきの彼方に姿を消した。蜃気楼のなかに一直線に消えていった自転車乗りたちが、夕方になってまた蜃気楼から出てくるのを、軒先に座って待ち構えていたホリングズワースは見るのだった。(柴田元幸 訳)


長々と引用したのはこの文章にちょっとこころが揺らいだからである。なんと美しい情景だろう。特に後半部、…朝、蜃気楼のなかに一直線に消えていった自転車乗りたちが、夕方になってまた蜃気楼から出てくるという。設定もプロットもめちゃくちゃで乱暴でわけわかんない小説ではあるのだけれど、妙にリリックな文章と奇妙な物語の展開に、こころ惹かれるのでありました。
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