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355. ポール・オースター 幻影の書


「幻影の書」(2002)、登場するのは、まず大学の教員、ジンマー。ヴァーモント州に住む。(オースターの過去の作品の登場人物と同じ名前を持つが、とりあえずそのことは忘れててもいいようだ)
彼は、事故で家族を失い、自分のこころも失いかけている。そうした中で、ある映画に出会う。何十年も前の無声映画のシリーズである。その監督兼俳優と、その作品(スラプスティックコメディ)に魅せられていく。そして、その作品論を本にする作業に取り組むことで、何とか生き続けている。本を書くということは どういうことであるか。
そして、もうひとりの主人公である映画監督兼俳優、ヘクターについて語られる。彼は遥か昔に失踪した人間である。今は、数本の作品だけが残されている。ジンマーの作品論が出るまでは、ほとんど忘れられた存在であった。既に死んだものと思われていた。しかし、実際には、ニューメキシコ州に住み、奇妙でカナシイ人生を生き続けていた。 映画を作るということはどういうことであるか。
次の登場人物は、二人の女性である。ジンマーに、ヘクターが生きていること、そして死にかけていることを告げ、未発表の映像作品を見に来て欲しいと伝える。一人は、ヘクターの妻である。もうひとりの女性は、ヘクターの伝記を書き進めている。本を書くということはどういうことであるか。

本がペンシルヴェニア大学出版局から刊行されて、このあいだの三月で十一年になる。十一年前、出版されて三 か月後、映画専門誌や学術誌にぼちぼち書評が出はじめたころ、郵便箱に一通の手紙が現われた。封筒はそのへんの店で売っているのより大きく、より正方形に 近かった。厚い高級な紙だったので、結婚式の招待状か赤ちゃん誕生の報せだろうか、ととっさに思った。私の名前と住所が表一杯に、優雅な、豊かにうねった 字で書いてある。プロの代書人の仕事でないとすれば、上品な筆跡の効能を信じている人間、昔流の礼儀作法をしつけられた人間が書いたものであることは明ら かだった。消印はニューメキシコ州アルバカーキになっていたが、裏の上部に記された差出人住所を見ると、書かれたのはどこか別の場所であるらしかった―― そんな場所が本当にあって、その町の名が本物であるとすれば。二行にわたって、そこに書いてあったのは、ニューメキシコ州ティエラ・デル・スエーニョ ブ ルーストーン農場という地名だったのだ。これを見て、私は思わず笑みを漏らしたかもしれないが、それについてはもう思い出せない。差出人の名前は書いてい なかった。中に入っているカードを読もうと封筒を開けると、ほのかに香水の匂いが、ラベンダーのエッセンスのかすかな香りが立ちのぼってきた。
(柴田元幸訳)



そしてそして四人が出会い、物語は大きく激しく揺れ動きながら閉じる。
最後に、何が「幻影」であるのかを考えるのは読者の役目である。



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