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366. 矢作俊彦 悲劇週間

矢作さんといえば、一番に「気分はもう戦争」(大友克洋+矢作俊彦)を思い出すのだからいい読者とは言えない。正直に言えば、彼の小説はちょっ と苦手なのである。ハードボイルド探偵小説はなにやら翻訳物のパロディのようなにおいがするし、最近のブンガクテキ小説は、これも独特のギミックが気に 障って読み辛い。しかし、この「悲劇週間」(2005)は、違う。違うどころか、大傑作だと思うのだがどうだろうか。堀口大學の若き日の姿を鮮やかに描いている。

明治45年、ぼくは二十歳だった。それがいったいどのような年であったか誰にも語らせまい。
一切は、公使としてメキシコに赴任していた父がぼくを任地へ呼び寄せようと心に決めたことから始まった。もとより学業に向かぬぼくは、やっとの思いで慶応の予科に入学したばかり、学生暮らしもまだ一年とは経っていなかったのに。


どんな小説かというといわば「若き詩人の肖像」である。わたしはこの設定に弱い。ジョイスのもリルケのも伊藤整のも大好きなのである。あるいは、アルハンブラ物語を思い出す。これがアーヴィングにとって単なる紀行文でも旅行記でもなかったのと同じように、堀口大學のメキシコはとても美しい物語 を秘めていた。

これらの先達にいきなり並べるのは乱暴かもしれないが、矢作さんのこの作品もみごとなできばえだと思う。抑制された文章で、堀口大學のメキシコ時代の二年間を鮮やかにとらえている。物語の起伏はそれほど大きくはなく、また遠くメキシコに舞台が設定されていることもあって、なにか絵空事のように物語が流れていくような気分にもなるが、それを空虚に感じさせないところが作家の腕なんだろうと思う。百年前のメキシコシティの気分が、メキシコ革命の動きが、そこに 生きる人間たちの息吹が、堀口大學の思いが、あざやかに描き出されていてこころを打つ。

こんな小説を読んだあとは、24時間くらい安静が必要である。安静が必要と言って酒を飲む。メキシコだからコロナでもテカテでもいいから飲む。ただ余韻に浸りたいだけなのである。

  もう歩けないよ、これ以上
  だって瓶の酒はもう空っぽだ。
  ラ・クカラーチャ ラ・クカラーチャ♪



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