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373. セルヒオ・ピトル 愛のパレード

ピトル(1933~)は、メキシコの作家。20代から約30年に渡る長期の海外生活を経験したことを反映してか、従来のメキシコ小説の枠にとらわれない自由な作風が特徴であるという。
・・・彼の代表作である「愛のパレード」(1984)を読むと、なるほど巧みで思索的でスリリングで遊戯性や幻想性に富んだ作品である。読後には、邦訳がこれ一冊だけというのがなんとも惜しいとためいきをついてしまうのである。

銃撃事件が発生したとき、彼はこの建物の住人だったはずである。おそらく十歳にはなっていただろう。十分に物心がついている年頃である。事実、その頃の思い出ならたくさんあった。とはいえ、なんと曖昧な、一貫性を欠いた、支離滅裂な思い出の数々だろう。彼の脳裏に浮かぶ過去の出来事は、おそらく報告文書に記されている事件とは何の関係もないものだろう。いったいどこで銃撃事件が発生したのか。いま彼が立っている中庭か? それとも階段か? あるいは建物の前の通りか? 一向にはっきりしない。それでも少年時代の思い出を手繰り寄せながら、失われた記憶のかすかなざわめきが耳元をかすめることがあった。いまの彼には、それが銃撃事件の思い出や、家族を襲った大きな衝撃の記憶に結びついているような気もするのである。あの出来事が彼の人生に決定的な影響を及ぼしたことは間違いないが、脳裏に浮かぶのは、どこまでも漠然とした記憶でしかなかった。あの事件のおかげで、彼はメキシコ・シティにとどまることも、小学校に最後まで通うこともできなかったのである。
(大西亮訳)



小説の舞台は1970年代のメキシコ・シティ。主人公は、ミゲル、妻に先立たれ、二人の子供を育てる歴史学者。1942年にミネルヴァ館で起きた殺人事件の謎を追いかけるという形で、物語は進行する。といってもこれはミステリではない。決して明らかにされない歴史の謎の解明に取組むというのだから、仮に探偵小説であるとしても、なんとも不条理な探偵小説なのである。
メキシコ革命から二次大戦に至るメキシコ現代史をなぞりながら、革命に乗じて頭角を現す一族、逆に没落する一族、跋扈する亡命ヨーロッパ人と反乱軍の残党等々の姿を饒舌に描いていくというこの物語世界は、すこぶる豊饒で魅力的で、・・・そうまるでボルヘスやカルロス・フェンテスの小説世界を思わせるのでありました。



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