スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

426. 山尾悠子 帰還 (フルーツ小説百選)

先に「白い果実」という本について記事を書いた。山尾悠子が共訳者として記されているから読んだというようなことを書いた。それでは・・、ということでもないが、国書刊行会版の「山尾悠子作品集成」を取り出してきて、ページを開いている。読んでいるのは、“童話・支那風小夜曲集”と名された掌編のひとつ、『帰還』(1980)である。

旅行のために長く留守をしていた支那の大陸が雲海の下に見えてきた時、龍はやはり嬉しかった。
まだ年若いこの龍は、かつて広い世界に憧れたのだった。貿易風に乗って海を渡り、大陸から大陸へと何年も漂泊を続け、波斯の満月も西班牙に降る星も見た。でも今は、揚子江に落ちる半輪の月影を、峩眉山の北に登る麒麟座の星々を、久しぶりにこころゆくまで眺めたかった。黄海から山東半島の突端をまわって夜の渤海へと入っていきながら、龍はまずどこへ降りようかと考えた。黒雲を巻き青金の鱗をざわめかせて翔る龍の姿を見た船乗りたちは、あわてて灯を消してなりをひそめた。鉄板のように鳴りひびく龍の鱗の一枚一枚は、触れあうたびに電光を発して稲妻のように海面を光(て)らしたのだ。海岸線を越えて上陸した龍は、やがて行く手に懐かしい古い都の燈火を見た。
まずあそこに降りることにしよう。(中略)
人間の姿になって北京の街筋に入っていくと、地上には良質の支那墨のような闇がなま暖かくよどんでいた。龍は花櫚(かりん)の砂糖づけを買って、食べながら通りから通りへと歩いた。(中略)
そうだ、女に逢いに行こう。久しぶりに逢って、みやげ話などもしてやろう。(中略)

龍、龍、おまえなの?
そうだ、龍だよ、帰ってきたよ。
火雲と鳳凰を縫いとった女の衣が、龍の前でゆれた。灯を消して、二人は頬をよせて踊った。(中略)
龍、おまえの息は花櫚の実のにおいがするよ。


作家自身によれば、この掌編集は、“まず辞書を用意して、支那趣味の言葉を片っ端からノートに書きだして。”というふうに書かれたものだという。“牡丹とか翡翠とか物品名称を大量に使うだけで一つの世界が出来るでしょう”、というのだが。   果たして、そうか?本当にそんなふうにして書かれたのだろうか?
言葉の用いかた、文体、レトリックのみごとさ、それが山尾悠子の作品の魅力だということは言うまでもないのだが、同時に、“物品名称を大量に使うだけで一つの世界が出来るでしょう”というのは、作家が確信犯的に書いた”嘘“だとも思うのだが、どうだろうか。 ああ、秋は疑惑の季節だというが、ほんとうだな^^。


にほんブログ村 本ブログ 海外文学へ




関連記事
スポンサーサイト

⇒comment

Secret

被災地の学生を応援しよう!
プロフィール

jacksbeans

Author:jacksbeans
ようこそ!
記事のカテゴリ区分は、
①自転車、②図書室、③青、④メキシコ、⑤フルーツ、⑥階段、⑦画家、⑧スープ、⑨音楽、⑩綠、です



にほんブログ村 本ブログへ

ブログ村ランキング参加中、
クリックしていただけると幸いです。

カテゴリ
月別アーカイブ
04  12  09  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04 
検索フォーム
最新記事
PVアクセスランキング/海外文学
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。