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428.樋口一葉 にごりえ (フルーツ小説百選)

岩波文庫では、『にごりえ/たけくらべ』の二篇が一冊に収められている。表紙の絵は、清方の「たけくらべの美登利」である。そのせいでもないが、二篇を比べると読んだ回数は圧倒的に「たけくらべ」が多い。いつ読んでも、何回よんでも、こころがふんわりとする。
それに比べると「にごりえ」は、すこし読み辛い。遊郭のまちで暮らす私娼のはなしである。こころに重いものを抱えている女のはなしである。そのこともあってかなり読むのがつらい。そんなことを言うなら、たけくらべの方もほんとうは哀切なはなしなのであるが。でもしかし、やっぱりにごりえの方が読むのがつらいのはなぜだろう。

結城さん貴君に隱くしたとて仕方がないから申ますが町内で少しは巾もあつた蒲團やの源七といふ人、久しい馴染でござんしたけれど今は見るかげもなく貧乏し て八百屋の裏の小さな家にまい/\つぶろの樣になつて居まする、女房もあり子供もあり、私がやうな者に逢ひに來る歳ではなけれど、縁があるか未だに折ふし 何の彼のといつて、今も下坐敷へ來たのでござんせう、何も今さら突出すといふ譯ではないけれど逢つては色々面倒な事もあり、寄らず障らず歸した方が好いの でござんす、 (中略)
貴君には聞いて頂かうと此間から思ひました、だけれども今夜はいけませぬ、何故/\、何故でもいけませぬ、私が我まゝ故、申まいと思ふ時は何うしても嫌やでござんすとて、ついと立つて椽がはへ出るに、雲なき空の月かげ涼しく、見おろす町にからころと駒下駄の音さして行かふ人のかげ分明(あきらか)なり、結城さんと呼ぶに、何だとて傍へゆけば、まあ此處へお座りなさいと手を取りて、あの水菓子屋で桃を買ふ子がござんしよ、可愛らしき四つ計の、彼子が先刻の人のでござんす、あの小さな子心にもよく/\憎くいと思ふと見えて私の事をば鬼々といひまする、まあ其樣な惡者に見えまするかとて、空を見あげてホツと息をつくさま、堪へかねたる樣子は五音の調子にあらはれぬ。


“水菓子屋”は、この時代の小説を読むとよくあらわれる。すぐに思い出すのは漱石の「夢十夜」であるが、あちらはファンタジーのような話で、水菓子屋の店先に腰かけている男はぼんやりとした道楽者で、どうみても哀切とはほど遠い。しかし、こちらはいけない。この二階から見下ろす場景は、水菓子屋で桃を買う少年を見降ろしている遊女のすがたは、どうも哀しくてやりきれない。だから、つい、「たけくらべ」の方を読みたくなるのだろうか。


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