437. スティーヴン・ミルハウザー シンバッド第八の航海 (フルーツ小説百選)

フルーツ小説に対する最近のアプローチとして、すぐに思い浮かぶのは、ジャネット・ウィンターソンの諸作品やシーラッハの『犯罪』であるが、わたしが推したいのはミルハウザーの短編集『バーナム博物館』(1990)である。ここに収められた作品群には、一作、一作に、フルーツについてのゆたかなイメージがしっかりとひそんでいる。

午後遅く、斜めにさす日ざしは明るく、空は青い炎。商人シンバッドは中庭の花園北東の角、オレンジの暖かい木陰に座っている。なかば閉じられた瞼の向こうに、葉陰に舞う木漏れ日の典、大理石の日時計の白い柱や、遠くの白い噴水の縁をきらっと打つ光が見える。噴水を照らす陽光のように、かつての航海がゆらめき、ほのかに震える。熟れた黄色の実が木々にたわみ、水晶のように済みきった水の流れるあの川べりにたどり着いたのは、七つの航海のうちいずれであったか、シンバッドは思い出せない。シンバッドは思い出せない、彼の背中にしがみつく老人が現われるのは、あの毛深い猿のごとき、群れをなして船によじ上り鋭い歯で綱や索にかじりつく連中よりも前だったかあとだったかを。
(「シンバッド第八の航海」、柴田元幸訳)


ここには引退したシンバッドがいて、オレンジの樹の下でまどろんでいる。すでに七つの航海について語り終えたはずのシンバッドである。たしかに、オレンジの樹のしたで座ったり寝転んだりしているのがふさわしい。しかし、彼は、いつのまにか起きだして、新たな航海の物語を話し始めるのである。オレンジは、”休みの木”ではなかったか?



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