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441. ロバート・クーヴァー 老ピノッキオ、ヴェネツィアに帰る

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「老ピノッキオ、ヴェネツィアに帰る」(1991)は、”ピノッキオの冒険”の後日譚とでもいうべき物語である。いい子になった褒美として人間になったピノッキオは、学者となり、西洋文化と思想の研究で業績を上げたのち、百歳を越えて故郷ヴェネツィアに戻ってきた。ここから、物語はスタートする。

もちろん酔っ払うとろくなことはない。とくに二、三杯引っかけてほろ酔い気分になってくると、彼の独り言が一番ひどくなるのであったが、この場、このひとときの魔法の虜となった彼は、この時間を引き延ばし、できることならそのめくるめく魔法の核心に迫りたいと思う。そのために、まさにそのためにこそ自分は帰ってきたのだ。そう考えながら、彼は淡い色のグラッパをすする。どことなく冬梨とバニラを思わせる、茎のような香り、つんとくる植物のような風味。これは彼の父が大好きだった飲み物だ。親父はこれを自分で作っていた。長い年月を経て黒ずんだ古いオークの樽に入れ、階段の下でずっと寝かせておいた。そして毎週、グラッパが大好きで、鼻がサクランボのように真っ赤なためサクランボ親方と呼ばれていた男が(どうしても本名が思い出せないが、そんなことはどうでもよい)、焼き菓子や籠に入れたイチジクや少しばかりの薪など、ちょっとしたものを持ってグラッパ目当てにやって来るのだが、親父に誘われるままに中に入り、親父がもったいぶって「とっときのやつを一杯やるかい」と切り出すのを待って、いやいや、今日は失敬するよと言いながら樽のほうに歩いて行くのだった。(中略)
それから、グラッパへの旅が頻繁になってくると、いつの間にかチェス盤の上の駒が自動的に動いているかのような妙な動き方をするようになったり、片方の手番に二度カードがめくられるようになり、冗談は侮辱に、言葉のやり取りは小突き合い、殴り合いとなり、やがて部屋はめちゃくちゃ、二人は傷だらけ、耳や鼻は歯型だらけ、ボタンは弾け飛び、鬘は掻きむしられ、そして廃墟となった部屋のどこからか親父の声が響くのだ。「もう一杯どうだい、サクランボ」
(斎藤兆史・上岡伸雄訳)


引用したのは、酒場「赤エビ亭」でピノッキオがワインやグラッパを飲み酔っ払っていく場面。
思い起こせばこの酒場は、昔々狐と猫に騙されて連れてこられた場所でもあった。ああ彼の運命やいかに?  ・・翻訳小説としては、2012年・ベスト級の面白さだと思う。



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