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448. ケイト・アトキンソン 時空の亀裂 (フルーツ小説百選)

2012年の翻訳小説ランキングをわたしが選ぶとしたら、ケイト・アトキンソンの短編集『世界が終わるわけではなく』は、確実に11位には入るだろう。
なんだベスト10のランク外かよ!、とおっしゃる向きにはこう答えたい。
ボラーニョ、ピンチョン、レーモン・クノーなどの大作や、ラファティ、ル・カレ、ローレンス・ブロックなど偏愛する作家の新刊がずらっと並ぶ中で、それらに伍して11位に入るのはとてもすばらしいことなのであると。

死の直前、マリアンヌの頭をよぎったのはレモンのことだった。より具体的に言うなら、何週間か前にイタリアのアマルフィ海岸から持ち帰り、いまも冷蔵庫の底でひっそりと腐りかけているレモン。この日は雨、それもスコットランド特有の激しい降りで、マリアンヌを含め誰もが制限速度をオーバーしていた。雨降りでしかも黄昏時とあれば、M9道路でぐずぐずしていたい者などひとりもいない。(中略)
と、そこに耳を聾さんばかりの轟音が湧き起こり、見ればすぐ横の追い越し車線を冥界の王ハデスの二輪馬車が、いまままさにマリアンヌの車を追い抜こうとしていた。馬の脇腹から吹き出す汗の饐えたにおいや、ハデスの腐ったキノコのような口臭までが嗅ぎ取れそうなほど、すぐそこに迫っている。そのときだった。ハデスが馬車から身を乗り出し、マリアンヌのアウディの窓ガラスをがつんと叩き割った。マリアンヌは「まずい」と思った。
(「時空の亀裂」、青木純子訳)


「時空の亀裂」も、この短編集に所収の一篇である。
奇想の作家の名を裏切らない、とびっきり不気味で、笑ってしまうしかないくらい奇妙な一篇なのである。・・・訳者あとがきによれば、アトキンソンは、ルイス・キャロルの作品を偏愛しているのだそうだ。そういえば、この短篇の、笑えないジョークと思わず笑ってしまうような悲劇がミックスされた味わいは、"アリス"に似ているという気がしないでもないのである。



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