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452. フルーツ・パーラー

フルーツパーラー2


友人のF君は、フルーツパーラーが大好きだという。
だから神田須田町の万惣の閉店が決まったときは悲しみにうちひしがれたそうだ。
万惣はあの池波先生が贔屓にしていた店だからね、と付けたしてみたり。
しかしそれから一年が経ちようやく元気を取り戻したのだと言う。
嘆いているだけではいけない新たな道を探るべきであることに気がついたから、とはいかにも大袈裟な口調だが。
それはもちろん新しいフルーツパーラーを見つけたからね。
そうだ今から行ってみないか? って、まだ午前中だよ。

心配は要らないらしい。
目黒の「果実園」は朝七時開店だからね。ここでモーニング・フルーツサラダを食べてから出勤する幸せ! 末広町の「フルーフ・デゥ・セゾン」も十時過ぎには開く。クロワッサンのフルーツサンドを食べるのもいいな! そうだ十一時になれば浅草の「ゴトー」もオープンする。あそこのフルーツパフェは見逃せない!
でもなにも食べなくてもいいんだ。Fクン曰く、朝、フルーツパーラーの白く輝くような雰囲気のなかに坐っているだけでなんだか落ち着くんだ。

二人は暑い日盛りを用ありげに歩いた。電車通りの曲ったところから別に一つの通りが開けて、そのトンネルのやうな街に入ると何だか落着くのではあった。が、其処の街のフルーツ・パーラーに入って柔かいソファに腰掛けると猶のこと落着くやうな気がした。で、彼等は自分達がまたもや何時ものやうにコーヒーを飲みに行くのであることを暗黙のうちに意識してゐた。
 電車や自動車の雑音はさっきから彼等の会話を妨げてゐた。痩せて神経質な男の方は目をいらいらさせながら訳のわからぬ吐息や微笑を洩らしてゐた。体格の逞しい柔和な男も相手に和して時々笑ひを洩らすのであった。彼等は暢気な学生で、何と言ってとりとめもない生活を送ってゐるのではあった。が、絶えず何かを求めようとする気持が何時も彼等を落着かせなかった。
 突然、体格の逞しい男の方が相手を顧みて、
「椅子が欲しいね。」と言った。
(原民喜、椅子と電車、1935)


・・・そういえばそんな気分のことを書いていた小説もあった。フルーツパーラーの椅子に腰掛けると落ち着くって。
思い出して、読み返してみると、多少古めかしいのはもちろんだが、なんだか不思議な調子で、それでいて抒情的な表現もまじって、魅力的なんだよね、この70年も前に書かれた掌編が。


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