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455. ウィリアム・トレヴァー 失われた地 (フルーツ小説百選)

「失われた地」は、短編集『アフター・レイン』(1996)に収録の一篇。
引用するのは物語の冒頭、まず登場するのは、ミルトン、16才にまだ届かない少年である。続いて、黒髪の女性。彼女はなにものであるか?

1989年9月14日木曜日の午後、丘の上の父親の果樹園でミルトンは一人の女性から声をかけられた。ミルトンはびっくりした。もし女性がりんごを盗んでいたのなら、彼の足音が聞こえた時点でその坂のあたりで身を隠すことができたはずだ。ところが、彼女は挨拶をしようと前に進んで来た。ウエーブの無いまっすぐな髪は黒く、細面の顔にはやつれたような感じがあったが、それにもかかわらず若々しく見えた。ミルトンが彼女に会うのはこれが初めてであった。(中略)
その後、ミルトンは黒っぽい外套のすその下からのぞいていたやせたふくらはぎと細い肩、そして彼女のものとは到底信じられないような豊かな黒髪を思い出した。彼にキスをしたとき、彼女の唇にはミルトンの母のもつ湿り気はなく、骨のようにかさかさとして乾いていた。その感触がごく軽かったので彼はキスをされてもほとんどそれとは気づかなかった。
(安藤啓子訳)


物語の舞台はアイルランドのとある村、時代は・・・、何十年か前の話かと思いながら読み出すと、いや違った、1989年だと書いてある。ほんの20年ほど前のはなしである。
ほんの20年ほどまえのアイルランドでは、こんな重く暗い空気が常時流れていて、信仰も家族も少年もすべてがその渦の中に巻き込まれてしまうという、そんな物語が幾つも幾つも繰り返されていたのだろうか。
トレヴァーが68歳で書いたこの短篇集は、いつもの作品にもまして緻密で味わい深いものの、その分、とても重くこころに響いてくる。どうしてくれるんだいっ。暗い冬の夜に読む物語ではなかったとも思う。



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