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469. キアラン・カーソン シャムロック・ティー (フルーツ小説百選)

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その絵のことはぼくもようく知っている。ずっと大好きな絵だったからである。
たった一度だけだが実際の作品も見たことがある。もち、オレンジのことも覚えている。
そりゃあ絵の前で釘づけにもなったさ。閉館の知らせをきくまでのあいだ、ほんの短い時間だったけれど。
それでも、窓の外にサクランボの木なんてあったか?青い空なんて覗いていたか?

 絵の中の部屋はオレンジの香りがした。ぼくは自分が着ているぜいたくな衣服のまとわりつくような重量感と、重くてかさばる帽子の裏地のひんやり湿った感触を意識した。隣に立っている女のひとはベレニスになっていた。彼女の黒髪は金髪になり、左右ふたつのお団子に結い上げられ、おのおののお団子には細く編んだ赤い網がかけられ、縦ひだをつけた白いリネンが髪全体を覆っている。彼女が着ている緑の長いガウンには毛皮の縁飾りがついていて、その毛皮の間から突き出したアンダードレスの青い紋織の袖は、袖口が金色とピンクの組み紐で編んだバンドになっていた。
ぼくはオレンジの香りがしてくるほうへ目をやった。窓の下枠の上に、自分の影を映しているいるオレンジがひとつ見つかった。あと三つ、衣裳収納箱の上にも見つかった。窓の外にはサクランボを実らせた一本の木が見え、ちょっぴりだが青い空も覗いている。窓から射し込んでくる光線の角度から見て、おそらく夏の日の正午頃だと思った。昼間なのに、真鍮を雷紋状に細工したシャンデリアにはロウソクが一本灯っていた。
 ますます奇妙てきれつマカ不思議だね、とペレニスが口を開いた。
(栩木伸明訳)


物語のなかで、主人公のぼくとペレニスは、"絵の中"に入っていってしまう。
その絵とは、ヤン・ファン・エイクの『アルノルフィーニ夫妻の肖像』である。
もちろん、この絵なら、その中に入ってしまいたいと誰でも思うだろう。
だが、しかし、二人は入りたいと思って入ったのではなかった・・・。

キアラン・カーソン(1948-)は、アイルランドの詩人であり作家である。
この本も、なにやらきらきらした散文詩のような断章をつみあげていったら、最後にひとつの物語になったと、そんな感じがするのである。



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