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470. プルースト 花咲く乙女たちのかげに (フルーツ小説百選)

「失われた時を求めて」のなかても、第二章「花咲く乙女たちのかげに」がわたしは大好きである。
引用するのは、"私"が、前の年に訪れたバルベックでの一日を回想する文章である。
ここで重要なのは、リンゴの花の思い出ではない。想像の力でそのバルベックの道に"ある日、再会することになる"という部分である。
 

私たちは出発した。駅の周囲をいったんぐるりとまわってから、やがて田舎道に入るのだが、角を曲がって美しい囲いになった畑のあいだにさしかかるあたりから、両側に耕した土地を控えた曲がり角でこの道をそれるまで、田舎道はコンブレーの道のように、たちまち私には懐かしいものになった。耕地の真ん中には、ところどころにリンゴの木が見かけられる。なるほどそれは花もつけておらず、ただ雌蕊だけが残っているのだが、それでも私をうっとりさせるには充分だった。なぜなら、私はそこにリンゴ特有の葉を認めたからで、広く茂ったその葉は、すでに終了した婚礼の壇の上にしかれた絨毯のように、つい最近までやや赤味を帯びた花の白いサテンの引き裾に踏まれていたのである。
 明くる年の五月のパリで、いったい何度私は花屋に行ってリンゴの枝を買い求め、それからその花を前にして夜を過ごしたことだろう。(中略) そして私はその花を想像の力で前の年のあの道に移して、数を何倍にも増やそうと試みたり、例の囲いになったふ畑の形はそらんじていたから、用意されたこの額縁のなかの準備万端ととのった画布の上に、その花を広くばらまこうとつとめたりしながら、しきりとその畑に再開したいと思うのだった。その結果じじつある日、私はそれに再会することになるのだが、それは春がうっとりさせるような天才の力で、そのカンヴァスを春の色で塗りこめるときであった。
(鈴木道彦訳)


あえて誤読を恐れないとすれば、想像の力で再会するのは、同じバルベックであることには違いないのだが、「前の年のあの道」ではなくて、「未来の道」に再会するのだと思う。そこには、花咲く少女たちがあらわれ、その中には自転車を押している褐色の髪でポロ帽をかぶったアルベルチーヌがふくまれている。さらに書かずもがなのことを書けば、私は少女たちと一緒にそこで杏のタルトを食べるのである。




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